銀魂 小説 | ナノ


本日、世界中の優しさを集めて


朝起きて、隣にいたのは銀色のふわふわで、でもやましいことがあったわけじゃない。彼は昨日、ずっと私の側にいてくれたんだ。そう思うと少し、いや結構嬉しかった。
見上げれば見知らぬ天井。私と坂田にかかった布団は坂田のにおいがした。いつも食べてるお菓子みたいに甘くて、それでいてほんのちょっぴり苦い匂い。彼の吸ってる煙草の匂い。

昨日、私は彼氏に振られて、なのに無理に平静を装おうとした私の笑顔をすばやく坂田は見破った。放課後、坂田に引き止められて、坂田ならいいかななんて思って話したら止まらなくなって。最終下校の時間になっても泣きじゃくる私に見かねて、坂田は学校から近いこの家にいれてくれた。もう何回目なんだろう、とかそんなのは気にならないくらいずっとずっと泣いて、でも坂田は話を聞いてくれた。本当にお人よしな人。でも私は少しだけ、坂田の気持ちに気づいてる。知ってて、それなのに毎回毎回甘えて。私っていう人間は本当に嫌なやつ。だけど、坂田なら…と思ってしまったことも事実で、隣に眠る彼の髪の毛を指に絡めては離しを繰り返すうちに、罪悪感にかられる。
だって、考えてみたら私、凄い酷い事してる。
坂田は女友達とは違うんだよ。いくら優しくたって、いい人だって、列記とした男なのに。



「坂田、」

「坂田、坂田、坂田」



綺麗な寝顔、大きな身体、わたあめみたいな髪の毛、優しい声。
その、なにもかもが私を油断させる。
だめだめ、だめ。そんなことしたって彼を傷つけるだけなんだから。
坂田は私の傷ついた時の寄り所なんかじゃない。ちゃんと血の通った、私と同じ人間なんだ。都合のいいときばっかりな私と一緒にいたって、彼に辛い思いをさせるだけ。



「なに、また泣いてんだよ」
「さか、た」


泣いてなんかない、そう言って制服の袖で涙を拭う。気付かなかった、こんなに泣いていたこと。痛いくらい、なかなか水を吸わない制裁の袖で擦れば坂田の大きな手に止められた。なに、よ。どうしたのよ坂田。


「どうしたのじゃねえだろ。真っ赤になってんじゃねーか。」
「別に私の顔なんてどうなったっていいよ、もうどうでもいい」


だからこんな私に優しくしないでよ。お願い坂田、あんたの優しさは私には綺麗過ぎるの。私には勿体なさ過ぎるの。


「よくねーよ」

「お前がよくても俺がよくねーの」


ぽんぽん、とまるで小さい子をあやすように抱き寄せて、頭を撫でて。俺はさ、お前の事自分よりも大事なの。わかってんだろ、察しのいいお前なら。びっくりした。だって坂田は私が知っていることを知っていたんだから。



「俺はさ、お前の事一番に考えてるよ」

「今日は大丈夫かなーとか、授業寝るなよーとか、なんでそんなにってくらい」

「だからさ、今はただの寄り所でもかまわねーよ」



ゆっくりと、それでいて芯がしっかりした声で、一言一言が染み渡るみたいにして私の中へと入り込もうとする。だめ、だって私、絶対坂田のこと…



「わたし、傷つけるよ、きっと」
「傷つけてかまわねーよ」

「好きになるかも、わからないよ?」
「いいよ」

「それに私、坂田になにもしてあげられない…」
「いいんだよ、それで」



ギュウと抱きしめてくれた坂田は凄く温かくて、涙がでるくらい優しい音が聞こえた。どくんどくん。私の音も坂田に届いてるのかな、なんてふとそんな疑問が過ぎった。
私でいいの?お前がいいんだよ、今の私には最上級なくらいの優しい言葉。傷つけてもいい、まだ好きじゃなくてもかまわねえ、いいんだよ。俺が好きだから。だからさ、お前の哀しみ俺と半分こにしねえ?


本日、世界中の優しさを集めて
私の気持ちも全部、汲み取って、飲み込んでくれるんだ。


ねえ銀時、そう言ってから重ねた唇からは、やっぱり甘くてちょっぴり苦い、そんな味がした。
今はあんたの優しさに甘えさせてもらいます。だけどいつか必ず、絶対に絶対に、貰った分よりもっとたくさんの幸せを返すから、だから…
どうか私の側にいて。

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