銀魂 小説 | ナノ


世界中の誰よりも


結局あの後は他愛もない話を先輩として、異常なテンションの先輩に連れられてカラオケに行った。そこで散々失恋ソングを歌った先輩の歌を聴きながら、俺は少なからず自分とその歌詞を重ねてみたりした。ああ、俺はいつからこんなにもセンチメンタルになってしまったんだろう。なんて嘆いたものの、もうそれはどうにもできないことだと諦める。
だけど、だ。俺もいつまでもこの不毛な片想いを続けていたい訳じゃない。もちろんちゃんと想いを伝えたいと思っているんだ。だから今日こそは、今日こそは…そう思って早一週間が過ぎてしまった。そんな俺の姿を見てか総悟は散々俺を馬鹿にした。そこに対して勢い余って告白する、だなんて言ってしまったのが間違いだったんだ。何故かその場には総悟だけじゃなく銀八だとか、近藤さんだとかもいて、もう後戻りも出来なくなってしまった。



「どーしたの、土方くん」



そして総悟やらが勝手に先輩を呼び出して、今に至る。銀八の意味のわからない配慮で放課後の中庭と時間と場所の指定までされて、それはムードがいいからだとかなんだとか言っていたけれど真意はきっとZ組の教室からこの場所が見やすいからだろう、きっと。
ってそんなことはもうどうでもよくて、目の前で何で呼び出されたのかもわかっていない先輩はずっと俯いている俺のことをじっと見ている。そんな視線に耐え切れなくなった俺は、多少目を泳がせながら口を開く。


「あ、あの…先輩、」
「うん、」


おっ俺、先輩の事…とあまりにもベタではあるけれど俯いていた顔を上げて、告白の言葉を言おうとした瞬間、先輩は大きな声で笑い出した。え、な、なんだっていうんだこれは。俺はただ好きだと伝えようとしただけで、でも目の前の先輩は腹を抱えるくらいの勢いで笑っている。あ、あの先輩?と尋ねれば先輩はまだ少しその笑いを引きずるような表情で俺の顔を指差した。



「だ、だって顔…!」



そう言ってポケットから小さな鏡を俺に渡した先輩はもう一度大きな声で笑った。そんな先輩に渡された鏡を受け取って急いで自分の顔を見てみれば、初めはなんのことだかわからなかったものの、顎の下というんだろうか、裏というんだろうか、とにかくそこに書かれた文字を見るなり顔中に熱が集まるのがわかった。ぜっ絶対に総悟の仕業だ…!



「土方くん顔真っ赤ー」
「ちょ、これ落としてきます…!」
「待って、」



あまりの恥ずかしさに急いで水道の所へ向かおうとしたら、先輩に呼び止められた。こんなとき、先輩の言う事を素直に聞いてしまう自分が憎い。そして先輩はそんな俺に近寄って、目の前に立った。



「それって本当?」
「…ま、あ」
「、そっか」



それから暫く無言の状態が続いて、今度こそ落としてきます、そういおうとした瞬間に先輩の顔が目の前にあった。もういろんなことがぐちゃぐちゃとした俺の頭で、何が起こったのか理解するのには少しばかし時間がかかってしまった。



「せ、んぱい…」
「土方くんって頭いいけどどこか抜けてるよね」



いきなりのキスの後はいきなりのダメだしかよ、そう思っていたら先輩は、でもそんな土方くんは嫌いじゃないよ、なんて言って笑った。
どういうことだろう、それは俺のいいように解釈しても良いということなのだろうか。



「先輩、それって…」
「女の子に全部言わせるなんて野暮ってものじゃないですか?」



そう言って笑った先輩に、やっぱり先輩はそのほうがいいっすよなんて言ったら先輩はまた花のように笑った。よし、今度はちゃんと伝えるんだ。俺の、今まで抑え込んでいた想いを。



世界中の誰よりも
土方くんの想いなんてずっと前から気づいてたけどね、でもまさかあんな風に告白されるだなんて思ってなかった。



先輩の事が世界で一番大好きです、か。
ちょっ、それは総悟が…!
あはは、すっごい面白かった!
お、面白いって…。
でも、嬉しかったよ。

ただなー、こんなに間抜けな彼氏はちょっとなー。
せっ先輩…。
(やっぱり土方くんってからかうのおもしろい)なんてね、嘘だよ。
(うっ嘘かよ…!)
ところで、十四郎くん。
(なっ名前呼び…!)
これからは先輩じゃなくて、ちゃんと名前で呼んでくれるんだよね?


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