ハグですか?




「見つかって良かったね。かなこちゃん」
「ココさんのお陰だよ。あんな上の棚に有る本、アタシじゃ絶対に気付かなかったよ」
「後はかなこちゃんの頑張りを期待するよ。あの教授、辛口採点で有名だからね」
「え〜っ?!脅かさないでよココさん!」


ただいまココさんと、電車で帰宅中。
レポートにどうしても必要な資料が大学の図書館に無くて。ココさんの提案で、遠くの図書館まで探しに行った帰りなんだ。

行きと違って座れなかったけれど、ココさんと一緒だから長時間でもへっちゃらなゲンキンなアタシ。
ココさんは吊革に左手を軽くかけて、アタシは扉を背にして手すりに手を添えて。
他愛もない話をしながらの夕暮れは、楽しく過ぎていった。

図書館はいつも大学に通っている電車で行ける。途中下車しないでそのまま終点まで乗れば良いだけだった。
だけどアタシは、今まで不便な場所にあるからと一度も利用していなかった。
そう。まさに今日が初めてだったの。
だから、知らなかった。

いつも利用している駅よりも先。
いつも乗っている電車がこんなに混むなんて・・・



「きゃーーーーーっ!」


「かなこちゃん!!」



一斉に乗り込んできた人の渦に、うっかり巻き込まれかけたアタシ。そんなアタシの体をココさんが慌てて引き寄せて。
そのまま開かない側の扉の前に、上手くアタシを収めてくれた。
「大丈夫?!」
「あ、ありがとうココさん」
行きは座っていけたからここまで凄いとは思ってもいなかった。
ココさんに助けられて、ホッと一息ついたアタシ。でも何だか・・・・・・
「・・・発車しないね?!」
「何処かで電車が止まったみたいだよ。その振替輸送で、」
ココさんが言い終わる前に、更に人が乗ってきた。
ココさんはアタシを庇って、扉に手をついた。

・・・手をついたけど。

「・・・ご、ゴメン。苦しくない?!」
アタシは、無言で頷いた。
ココさんには、アタシの今の顔が見えないだろう。
だって。
アタシもココさんの顔が見えないもの。
凄く凄く、・・・近すぎて。


ココさんの力をもってしても、全く隙間を作れない混み具合。
ココさんの体にぎゅうっと押し付けられたアタシ。
一瞬、心臓が止まりそうになった。
そんなアタシを気にもせず。扉がゆっくりと閉まり、電車は動き出す。

・・・ガタン。
・・・ガタン 、ゴトン、ガタン。

揺れと同時に、少しだけ隙間が出来てきたアタシたち。
でもアタシには、顔を上げて何か話す余裕は無かった。
アタシの顔は、きっと赤い。
だって。ココさんとの初めての距離にドキドキしっぱなしなんだ。
その音が静かな車内に聞こえそうで、意識すればするほど 、益々大きな鼓動になっている気がした。


電車は果てなく続く線路を一定のリズムで進んでいく。
ガタン、ゴトン、ガタンガタン、ゴトン。
同じ速度で聞こえるのは、アタシの心の音。
ドキ、ドキ、ドキドキ、ドキドキ。


不意に、電車が大きくカーブした。
カーブの揺れに乗れずによろけた乗客が、ココさんの背中にぶつかってくる。
ココさんの体も少し揺れる。
揺れと同じリズムで、アタシのオデコに触れるココさんの胸元。
ドキ、ドキ、ドキドキ、ドキドキ。

ドキ、ドキ、ドキドキ、ドキドキ。
あ、ココさんも同じリズムだね・・・




「ココさん、ゴメンね。服汚しちゃったかも」
アタシはゆっくりと顔を上げて、ココさんに言った。
「ぶつかった所。きっとファンデーション付いちゃったよ」
ココさんはくすっと笑って言った。
「気にしないで。凄い混みようだもんね」
開かない扉に手をついて、アタシを包んだまま。
・・・揺れるとその胸元に触れてしまう、至近距離で 。
アタシは、また下を向いた。
アタシのオデコが、ココさんの胸にとん、と当たる。



・・・ねえ、ココさん?
ぎゅうぎゅう詰めの電車で。
俯いていたアタシには、ココさんの周りにたくさんの靴が見えたよ。

・・・今は、

車内アナウンスはアタシの知っている駅名を流している。
いつも利用している駅。
いつも乗っている電車。
いつも、そんなに混んでいない区間・・・・・・


『この電車は急行です。』
ココさんの体越しに車内アナウンスが聞こえた。
『次の駅には停まりません。』
いつもならもうすぐ速度を落とすはずの電車。
今は、そのまま走り続ける。

ガタン、ゴトン、ガタンガタン、ゴトン。

停車駅に向かって、加速する電車。

ガタンガタンゴトン、ガタンガタン、ゴトン。


アタシのドキドキも。
同じリズムで、次の駅を目指した。










・・・そして気が付いてハッΣ( ̄ロ ̄〃)としたココさんです。



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