二度目のお願い。頭を勢いよく下げ、目をギュッと閉じてスパーダの返事を待つ。本当に自分勝手だと分かってはいる。だからダメだと言われたら素直に諦める覚悟はある。……何分経ったんだろう。実際はそう経ってはいないんだろうけど、私は十分以上こうしている気分になった。何も話さないスパーダに不安になり、顔を上げようとしたら、上から頭を思い切り叩かれた。


「当たり前だろ」


本気で叩かれたのか、ガンガンと痛む頭を押さえながら、スパーダの顔を見つめる。当たり前とはどういう意味の当たり前なのだろう?やっぱり自分勝手な願いだっただろうか?


「だから、そのなまえはもう仲間じゃねぇか、って話だよ」


ポカンとする私に呆れたようにそう言った。完璧なネガティブ思考となっていた私に、いきなりそんなことを言われても頭が着いていけない。


「むしろアレだ。逃げたら許さねぇってずっと言ってたろ」
「……じゃあ叩く必要はないじゃないか」
「あ?それはだな…」


私を受け入れてくれた。その事実はすごく嬉しいものだったけど、ならなんで叩かれたのかと。一応私は怪我人である。迂闊にビシバシ叩かれたら、そのまま御臨席してしまいかねない怪我人である。


「今しなきゃなんねぇのは自分の罪を知ることだから、“今は”死なねぇって言ったよな?けど全部分かってアイツに会った時は……」
「チトセが殺したい程私を怨んでるなら仕方ない」


ビシッ!それを口に出したら即座にスパーダにデコピンで返された。痛い。


「ちげぇよ。わざわざ殺されに記憶の場巡るんじゃねぇ。お前が死ぬ為にじゃなくて、生きて妹と仲直りするために旅するんだろうが」
「…………」


今日はあとどれだけ驚かされればいいんだろう。生きる為に、なんて今まで考えたことすらなかった。いつもどうしたら許されるのか、そればかり考えていたのに。大体私のことが許せなくて、殺したいほど憎くて既に刺された後だと言うのに。スパーダはそんなことを言うのだろうか。許してもらえるわけない。きっとそうなのに、なんでだろう。目から涙が。


「謝ったら…許して、くれるのかな」
「謝る必要すらねぇよ。お前はぜんせじゃなくてなまえだ。むしろ妹に礼言われる立場だろ」


仲直り、なんて考えたことなかった私は、きっと妹のことをサクヤとしか見たことなかった。だって今まで自分とぜんせは同じ。ぜんせの罪も私が背負わなきゃいけないと思いこんでいたから。だからイリアを始めてみた時、信じられなかった。自分とイナンナは違う。ハッキリとそう言う人間を始めて見たから。今思えば私は羨ましかったのかもしれない。決してぜんせと自分を切り離して考えることが出来ない自分の生き方を、どこかでうんざりしていたのかもしれない。ある意味ぜんせに逃げていたのかもしれない。チトセと向き合うのを最初に拒んだのは私だ。

ぜんせじゃなくてなまえ。今の私にはまだそんな考え方は出来ないけど、いつかそんな考え方が出来るようになったら、いいな。いや、きっと多分出来るようになるだろう。旅を始めて私は変われたから。まだ少しだけど。


「スパーダ…」


まだ涙が止まらない私の顔をなるべく見ないようにと、視線を反らしているスパーダ。私が名前を呼んでも一瞬視線を戻すだけで、泣き顔をあまり見ないようにするその配慮は、不良貴族と呼ばれていた人間とは思えない。


「ありがとう」


今は無理でも、少しずつ変わって、チトセと仲直りをする。そう思えるようになったから。


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