多分。
 そんな曖昧な一言がついていたが、あのあとなまえは嬉し涙を流しながら、け結局いつものマシンガントークをはじめた。

 前ははいはいで流していたが、すこしくらいなら聞いてもいいかもしれないなんて思って、阿呆みたいに泣きながら話すなまえを見ていた。
 なにをそんなに話すことがあるのかと、一言二言程度にだが相槌もうっていると、ふにゃりと笑うなまえに完全にやられた。

 たかがオレが相槌うっただけで馬鹿じゃねえの。
 いつもの憎まれ口も顔を赤らめながらじゃないと言えなくなって、なんか悔しい。


「オレとなまえ、ちゃんと付き合うことになりました」


 だけどそんな悔しさも、先輩のこの間抜け顔を見るとどっかに吹っ飛んでいった。
 信じられない、といった様子でオレとなまえの顔を交互に見るが、なまえはオレをずっと眺めていてそれに気づく気配すらない。


「霧野先輩が言ったんですからね、ちゃんと責任とれって」


 にやにやと、隠すこともなく笑みを浮かべていたら額に青筋を立てた先輩に睨まれた。
 そこから何を言うつもりだったかは知らないが、オレの名前を怒気を帯びて叫んだおかげで、なまえははじめて霧野先輩の存在に気づいたようだ。


「狩屋、おまえ」
「あのね蘭丸くん、わたしマサキくんと付き合うことになったの。これでもう蘭丸くんに慰めてもらうこともなくなっちゃったね、今までありがとう。もう大丈夫だから」
「だそうです先輩。なまえのことはオレに任せてください」


 別にストーカーから助けてくれなかった腹いせとかそういうつもりは全くない。
 ただ彼女の大切な幼なじみだっていうから丁寧に挨拶してるだけだ。

 ちなみにキャプテンには先程同じことをしてきたが、引き攣ったような笑みを浮かべておめでとうと言ったあと、唐突に泣きはじめた。
 なにが報われないって、なまえはそれを祝福の涙だと勘違いしたことだ。


「蘭丸くんも喜んでくれるよね?」


 とどめとばかりになまえが放った一言は、予想以上に霧野先輩には破壊力があったようで、キャプテンと同じような乾いた笑みで見送ってくれた。


「蘭丸くんも喜んでくれてよかった。ずっと迷惑かけてたから」
「……みょうじさんってけっこう鈍い?」
「そんなことないと思うけど。あとわたしのことはなまえって呼んでってば!」


 ぷんぷんと子供のように怒る彼女に、慣れない名前で呼びかけると、一瞬で笑顔になるからこっちの心臓に悪い。


「なまえ、好きだよ。多分じゃなくて、好き」


 だからお返し、と公園では言えなかったことを改めて伝える。
 一瞬目を大きく開いて固まったなまえだったが、照れ隠しかのようにその口からは言葉が溢れ出してきた。


「わたしだってマサキくんのことが好き。好き好き大好き、愛してる。マサキくんに好きって言ってもらえるのがこんなに幸せだなんて知らなかった。わたしがマサキくんのぶんも好きって言ってくつもりだったのに、嬉しくて涙出てきちゃいそう。マサキくんわたしを泣かした責任とってくれるんだよね?だって今蘭丸くんにちゃんと責任とるって言ってたものね。別に結婚を強請ってるわけじゃないの。もちろん結婚してくれるならそれが一番だけど、別にわたし今のままでいいよ。はじめて会ったとき言ったけど、マサキくんがわたし以外に何人も女の子を連れててもわたしいいの。すこしでもわたしのこと好きって思ってくれたら。だから口に出してくれなくても十分だったんだ。だけどマサキくんは勝手にどんどんわたしのお願いごと叶えていっちゃうんだもん。わたしのしてほしいこと知ってるみたいに。わたし幸せすぎるから世界中の人に妬まれちゃうかも。そのくらい今幸せなの。だからね、わたしどんどん我が儘になってきちゃったの。おかしいよね、はじめは一緒にいるだけでも幸せだったのに、それだけじゃ足りなくなってきちゃった。マサキくんとずっと一緒にいたい、離れたくない、嫌われたくない、わたしを見ててほしい、もっとわたしのこと知って欲しいし、マサキくんのこともたくさん知りたい。マサキくんの好きなもの、嫌いなもの、なにを考えてるのか、わたしのことどう思ってるのか、全部知りたいの。デートだってもっといっぱいしたい。一緒に行きたい場所だってたくさんあるの。デパートも動物園も水族館もマサキくんと行きたい。二人で他愛もない話たくさんして並んで歩きたいの。朝はマサキくんの家にお迎えにいって一緒に登校したい。もちろん恋人繋ぎで歩くの。お昼休みにはわたしの作ったお弁当を美味しいって食べて欲しい。放課後は部活中のマサキくんを誰より近くで見つめていたい。それでまた一緒に帰るの。テスト前には二人でお勉強会やお泊り会もしてみたい。パジャマで夜遅くまでいろんなことして遊ぶの。夏休みは楽しく海に行きたいわ。もちろんその前には一緒に水着を選びに行くの。秋には紅葉を見に行きたい。冬休みはしたいことがたくさんあるの。炬燵に二人で入って温めあいたい。クリスマスにはマサキくんにプレゼントを渡したいし、一緒に年越ししてそのまま初詣にも行きたい。春にはマサキくんと同じクラスになれるかなってドキドキしていたいの。もちろんこれが全部叶えられるわけがないのも分かってるの。だってわたしの我が儘だもん。わたしのこと嫌いになっちゃった?五月蝿い女だって思った?けど本当にマサキくんに好きって言われてからなの、こんなに我が儘になったの。ずっと頭からマサキくんのことが離れなくて、マサキくんのこと考えてるだけで胸がいっぱいになるの。だってしょうがないよね、好きなんだもの。どうしようもないくらい好きなの。猫被ってるときのマサキくんも、意地悪そうに笑うマサキくんも、困ってるマサキくんも、照れるマサキくんも好きなの。だからね、ひとつだけ。あとひとつだけ叶えてほしいの。わたしから最後のお願い、……キスしてもいいですか?」

 それ以上に恥ずかしいこともたくさん言っただろうに、最後だけ俯いて小声で言ったなまえの願い事はその場で叶えてやった。
 俯いた顔を強引に上を向かせて、キスをする。
 ストーカーの癖にキスひとつでひどく驚いた顔をするあたり、相変わらずなまえの思考回路はよく分からない。


「オレはキスだけじゃなくて、もっといろんなことなまえとしたいんだけど?」

戻る
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -