「ねえ狩屋、彼女出来たってホント?」


 天馬くんがそう言った瞬間、窓の外のみょうじなまえが心底嬉しそうな顔をした。一応言っておくがここは二階だ。


「やだなあ天馬くん、オレに彼女なんていないよ」
「そんな隠さなくていいよ。みょうじさんなんでしょ?」
「まさ、か…………うん、実はそうなんだ!」


 あらぬ誤解を防ごうと、否定の言葉を口にしようとした途端みょうじの顔が般若のようになったのはホラーでしかない。

 命の危険を感じたため、仕方なく言いなおすと「やだ私ったら」とでも言いたげな仕草を取り出したが、どうやっても手遅れ。今更どう取り繕ってもストーカーだから安心しろ。


「みょうじさんってキャプテンと霧野先輩の幼なじみなんでしょ?」
「……そうらしいね」
「いつもクールでかっこいいよね。狩屋にはよく話すの?」
「…………必要以上にね」


 クールでかっこいいとか。そんなの騙されてるだけだよ天馬くん。

 美人なのに今まで彼氏がいなかった?
 理由は先輩たちのガードが硬すぎて?

 先輩たちが彼女を溺愛してるのは置いといて、それらは間違いなく彼女自身に問題がある。というより本性を隠すためのガードだろ絶対。彼氏がいないとか……今までの奴は相当危機管理能力が高かったのか、それともオレの運がないのか。


「練習もよく見に来てるよね。ラブラブだね狩屋」
「……もうやめて」


 窓の外の笑顔が怖いから。
 あんまり喜ばせたらあれじゃん。それはそれの反動で刺されそうな気がする。どうしようハッピーエンドが見えない。


「もうやだタイムスリップしたい」
「……狩屋はみょうじさん好きじゃないの?」


 付き合ってるんだよね?
 念を押すように天馬くんがそう聞いてくる。窓の外にはいつの間にか霧野先輩までいて、一喜一憂するみょうじの隣でオレを睨んでる。なにあれ怖い。

 背中を這うような寒気になにも言えずにいると、天馬くんはもう一つ質問してきた。


「みょうじさんのこと嫌いなの?」


 嫌いだ。
 はっきりとそう口にしなかったのは、窓の外の人間のせいではなかった。


「嫌いじゃ、ない……けど…」


 迷惑だとは思うけど、ああもはっきりと自分に素直な人間は嫌いじゃない。
 まあ、だからと言って好きってわけでもないが。

「あ、そういえば音無先生に呼ばれてたんだった。またね狩屋」
「なにお説教?」
「狩屋じゃないんだから……」


 地味に失礼なことを言い残して、天馬くんは職員室へと旅立って行った。

 するとどうだろう。
 次の瞬間にはみょうじが目の前に立っていた。もういちいち突っ込んでいくのですら疲れてきた。
 これから言われることもだいたい予想がつく。


「マサキくんこんにちは。ねえ、今言ってたこと本当?いやだ、わ、わたしのこと……嫌いじゃないって……言ってたよね?マサキくんがそんなこと言ってくれるなんて思ってもみなくって。べ、別にマサキくんの愛情を疑っていたわけじゃないの。ただマサキくんはそういうことをあまり口にしない人だって思っていたから……すごく嬉しかったの。もしかしたら嫌われてるんじゃないかって、これでも不安だったの!わたし、いつも三日くらいでふられていたから。マサキくんもわたしのこと嫌になっちゃったかな?って。一週間も人とお付き合いしたことなんてはじめてで……!ああ、息が出来なくなりそう。これってやっぱりマサキくんがわたしの運命の人ってことよね。きっとわたしたちの小指は赤い糸でしっかりと括りつけられてるに違いないわ。それこそ指がちぎれるくらい固く。きっと神様だってわたしたちの糸を切れはしないわ。……いいえ、もし神様が切ってしまってもわたしが何度でも繋ぎ直すわ。百回でも千回でも。そしてそんなわたしたちを見て神も考えを改めるの。ああ、わたしはなんて愚かなことをしたんだろうか。この二人の愛は本物だ、ってね。そうなったらわたしたちは神様公認のカップルね。それって世界で一番素晴らしいカップルじゃないかしら?ロミオとジュリエットも素晴らしいけど、死んでしまったら意味がないものね。わたしはちゃんと生きてる間にマサキくんとの恋を成熟させるもの。きっと百年後には本になるわ。世界で一番ピュアな恋、って。そして映画化もされて、アカデミー賞まで貰っちゃうの。後世に語りついでいきたい映画として世界中で大ヒット。そうしたらわたしたちは有名人ね。世界中の人が狩屋マサキの隣にいるのはみょうじなまえが相応しいって認識してるのよ、なんて素晴らしいんでしょう!そうなったらもうわたしたちの仲を咲いてくる人間なんていなくなるわ。え、百年後には死んでるって?ならわたし頑張って不老不死の薬を探してくるわ。マサキくんが死んでしまうなんて、そんなことがもし現実に起こったら世界の損失は図りしれないわ。わたしだけじゃなくて世界中の人がマサキくんを思って泣いて、近いうちに人類は滅ぶわね。だってマサキくんのいない世界に意味なんてないって気づいたらあとすることなんてひとつしかないでしょ?世界中が自殺の名所になっちゃうわ。そうならないためにも一刻もはやく不老不死の薬がいるわね。きっと大人のマサキくんもかっこいいんだろうけど、今の姿が一番だものね。今の綺麗なマサキくんのままでずっといられるなんて……ああ、頭がくらくらしてきちゃうわ。あ、もし不老不死の薬が見つからなかったらどうするのかって?大丈夫、全部わたしに任せて。わたしが人生をかけてでも作り上げてみせるわ。もちろんマサキくんとの結婚生活もこなしながらよ。家事をサボってる奥さんなんて嫌でしょ?だから家事も研究も頑張って見せるわ。うふふ、これでも化学の成績はいいほうなの。家庭科は……って言うまでもないわね。マサキくんの好きな食べ物ならプロにだって負けない自信があるもの。練習で汚れたユニフォームをピッカピカに洗う練習も完璧だから!だからわたし、いつでも素敵な奥さんになれると思うわ。マサキくんの将来はまかせてね」

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