「霧野先輩、責任とれってこういう意味だったんですか」


 ゲッソリとした顔でそう言えば、霧野先輩は飲んでいたドリンクを吹き出した。
 人の顔見て吹くなんてもうマジ先輩死ねよ。誰の幼なじみのせいで今こうなってると思うんだ。

 あれからみょうじなまえは本当に宣言通りサッカー部の練習を毎日飽きもせず見に来ている。
 休み時間はピッタリ隣に張り付くし、授業中はすこし視線を横にすれば絶対に目が合う。外にいるときもふと辺りを見渡せば必ずいる。正直心休まるときがない。あとプライベート。


「ヤンデレとかリアルじゃただのストーカーですよ」
「自業自得だろ」
「教えてくれるくらいしたっていいじゃないですか!」
「人の幼なじみに嫌がらせする奴に誰がわざわざ教えるか」


 そう言われたらたしかにそうだけど、あんなストーカーだと知っていたら誰だって手なんか出さなかった。

 霧野先輩が言うにはオレのやった軽い嫌がらせも全て「狩屋くんからの愛」とやらに変換されてたのでダメージはまったくなかったらしい。なんておそろしい。
 もしこれが普通の女子相手ならすぐに止めるところだったけど、上記の理由で彼女はたいそう喜んだので先輩もキャプテンも放っておいた、ということだ。

 自分のやったことなんて棚にあげといて言う、ひどいひどすぎる。
 みょうじのためじゃなくて、オレのために止めてくれたってよかったのに。おかげでオレは夜も眠れない。

 しかも今日キャプテンに文句を言いに行ったときに言われた一言がこれだ。
 なまえが笑顔だったからいいかなって。
 いいわけがない。あんたらがその幼なじみをどれだけ溺愛してるかは分かったから、ちゃんと躾はしろよ。立派な犯罪者に成長してるぞ。


「そもそも狩谷が人の忠告を聞かないから悪い」
「あれでなにが伝わるっていうんですか。絶対伝える気なかったですよね?」


 まあ無理に止めるのもなまえが可哀相だろ。恋愛は個人の自由だしな。
 なんて笑顔で言われても、オレが納得するわけがない。そもそも人様に迷惑をかけといて恋愛は自由も糞もない。好奇心は身を滅ぼすとはまさにこのことではないか。


「嫌なら嫌とハッキリ言えばいいだろ」
「……刺されたりしないですかね?」
「………………」
「ちょっと!」


 無言で立ち去ろうとする先輩を必死でつれもどす。
 今霧野先輩に見捨てられたら、間違いなくオレはこれから一生あのストーカーに付き纏われる。天馬くんに相談しても「狩谷ってモテるんだね」という有り難いお言葉しか頂戴出来なかった。


「覚悟を決めて刺されろ」
「普通に嫌ですよ。そうならないように先輩に相談してるんじゃないですか」
「はいはい。なまえ、そこらへんにいるんだろ?出てこいよ」
「ちょ、なんで呼ぶんですか!」


 マサキくん呼びましたか?
 ほれ言ったこっちゃない。コンマ三秒くらいで登場したみょうじは眩しいくらいの笑顔でオレの前に立っている。

 とりあえず話しあえとジェスチャーしてくる霧野先輩だが、無理。
 いまだってほらーー


「練習おつかれさま。はいドリンクとタオル、用意したから使って。遠慮なんてしなくていいわ!だってわたしたち夫婦じゃない。夫婦間で変に遠慮なんてしていたら不仲なのかと思われちゃうわ。わたしたちはいつだってラブラブなのに。それにマサキくんにはなるべく他の女の子と関わって欲しくないから。マネージャーとはいえマサキくんに親しくしすぎよね?マサキくんはわたしのなのに。あ、ごめんなさい、つまらない嫉妬なんてしちゃって。だってマサキくんはかっこいいから他の子にとられたらどうしようって、わたし不安でたまらないの。マサキくんはそんなことしないのにね。もうわたしったらダメね。昔から好きな人のこととなるととまらないのわたし。それでお話ってなにかしら?もしかしてデートのお誘い?きゃあ嬉しい!わたしはいつでも空いてるわ!ううん、なにか用事があったとしても全部放り出して行くわ!マサキくんより大事なものなんてないものね。え、どこがいいって?わたしはマサキくんと一緒ならどこでもいいわ。二人でならどんな場所でも楽園に出来るもの。もし世界に残った最後の二人だとしても、マサキくんさえいればなんの問題もないわ。むしろ他の人間なんてわたしたちの邪魔をする存在、邪魔よね。あ、けど人類が二人になってしまったらマサキくんの大好きなサッカーが出来なくなるわね。わたしもマサキくんがサッカーしてる姿を見られなくなったら辛いわ。マサキくんの幸せがわたしの幸せだもの。ならいったいどうすれば……ああ、わたしがそれだけマサキくんの子供を産めば問題ないわね。家族皆でサッカーするの!なんて素敵なのかしら!ならそうなる前にきちんと結婚しないとね。わたしはどちらが先でも構わないけど、マサキくんの保護者にだらしない女なんて思われたくないもの。けど万が一反対されても大丈夫よ。わたしが障害となるものは全部切り捨てるから。もしそれがわたしの家族でも平気よ。マサキくんに勝るものなんてこの世に存在しないものね。けど出来る事ならたくさんの人に囲まれて誓いのキスをしたいわ。やっぱり女の子の夢だもの。指輪交換やケーキ入刀。想像するだけで幸せなのに、本当にするとなったらわたし死んでしまいそう。けどもし死んでもすぐに生き返るわ。だってマサキくんと離れたくないし、わたし以外の人と一緒になるマサキくんは見たくないもの。もしマサキくんが先に死んだらわたしすぐに後を追うから心配しないでね。二人はいつまでも一緒よ。神にだって引き裂けやしないわ。だけどやっぱりそんな誓いを交わす場所はこだわりたいの。わたしの我が儘でごめんなさい。けどマサキくんが許してくれるならデートで式場の下見に行きたいわ。ある程度の目星はつけてるのだけど、わたし一人じゃ決められないし……え、いいの?ありがとうマサキくん!初デートが教会って、わたしたちなんてロマンチックなのかしら!」


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