終わり良ければ全て良し。今回のミッションはまさにその言葉の通りと言える。私たちエルドラドの邪魔を幾度となくてくる雷門イレブンと行動を共にする少年フェイ・ルーンーー彼を封印するこもも今回の目的のひとつであった。だが円堂守の介入によりそれは不可能となった。マスターが標的をフェイ・ルーンから円堂守へ変更したから良かったものの、そうでなければ私たちはいったいどうなっていただろうか。ムゲン牢獄行きだけは避けたいものだ。

だが次のミッションに失敗すれば本当に牢獄送りになる可能性もある。身を引き締める思いでとりかからねばと、新たに配られたデータを確認する。覇者の聖典を持ち去った奴らはそれを解読するため過去へタイムジャンプした。私たちはあれが解読される前に聖典を奪取、それに加えマスターDを封印。

ここには雷門のメンバーひとりひとりのデータもあるが、どの人間も大したことはない。化身アームドが出来る人間もいないこのチームが何をと思うが、一応目は通しておかねばならない。ひとつひとつデータを確認し、最後のひとつで手が止まる。


「フェイ・ルーン……」


先のミッションのメインターゲットだった彼。緑色の兎のような髪型にはなぜか見覚えがあったが、彼が私を知っている素振りはなかったし、私の記憶の中にも彼はいない。人違い、それで片付けてしまいたいが何故かそこから目が離せない。やっぱり彼に見覚えがある。エルドラドに楯突く人間だからどこかで見覚えがあるだけかもしれないが、違うもっと別の場所で見たことあるような……。


「ナマエなにしてるの?」


肩に加わる重みと共に顔を覗かせたベータ様。軽く会釈をして「ミッションの確認です」と返事するとすごくつまらなそうな顔をされた。


「そんなに楽しみならはやく行きましょうか」
「と言いますと?」
「今すぐあいつらをぶっ潰しに行くに決まってんだろ!」


突如荒々しいほうの人格になってしまった彼女にももう慣れたものだ。はじめて見たときは何事かと慌てもしたが、感情が高ぶる度にこうなるのだから、慣れないわけがない。


「ですが出発は夕刻だったのでは?」
「そんなの関係ねえ!早くメンバーを集めろ!」


時計を確認するが時間はまだ昼。出発には大分早い。だがキャプテンであるベータ様がこう言っているし、遅れるよりは早いほうがいいだろう。それに私ももう一度あのフェイという彼を見ておきたい。結局はそんな自分の欲望に勝てず、ベータ様のいう通りメンバーに通信を送る。急のことなので集まるまでに時間がかかるかと思えば、十分もしないうちにメンバーは勢揃いした。さすがエルドラドに選ばれたエージェント。私もその一員になったのだからもう少ししっかりしなければならない。


「てめえら失敗は許さねえからな!」


いつも以上に声を張りあげるベータ様も、ひょっとしたら不安なのかもしれない。ここ数日エルドラド内にフェーダのスパイが潜り込んでるとの噂が流れている。フェーダといえばセカンドステージチルドレンだけで構成された恐ろしい機関。そんな噂のせいで今は誰もがピリピリしている。この前聞いたあの男の突き刺すような声音もそれを警戒してのことだろう。

ふと辺りを見渡せばもう私とベータ様しかここには残っていなかった。考えを巡らしていた私のことを待っていてくださったのか、穏やかなーーといっても比較的穏やかというだけの人格のほうに戻っていた彼女は、にこにこと頬杖をついてこちらを見ていた。


「ナマエといると落ち着くっていうか……よくわからないけど不思議な感覚になっちゃうのよね」

唐突にそんなことを言われても正直困る。曖昧に返事をし、私も皆のところへ向かおう腰を浮かしたが、ベータ様が私の肩に手をかけたため中腰で止まることになってしまった。


「ベータ様、ミッションに向かうので、は……」
「だからね、」


首筋にガブリ。え、とわずかに視線を傾けると、確かに私の首に顔を埋めるベータ様の姿が。甘噛みなんてものじゃなく、突き立てられた白い歯が私の皮膚を裂いていく。そこから溢れる血は一滴残らずベータ様に舐め取られ、満足したかのように彼女は私から離れた。


「絶対にガンマなんかに渡しませんもの」


そうやって笑顔を浮かべる彼女の意図が分からず、すこし恐怖に背筋が凍りついた。

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