SARUの声に反応するかのように物陰から出てきたのは、今最もと言ってもいいくらい顔を見たくなかった男ーーガンマ。どうしてこの男はこうも神出鬼没に現れるのだろうか。もうやめてほしい。これ以上彼の顔を見なくても済むように、SARUの胸に顔を埋める。


「君がそうやって姿を見せる度にナマエが辛い顔をするって分からないの?」
「もちろん把握済みだ。けどそれはボクのせいじゃない」


瞬間SARUの表情が凍りついたのがここからでも分かった。後ろのほうでフェイが後ずさりし、私も肩を凍ばらせる。この空間でマイペースを保っているのは、今の状況を作り出した元凶であるガンマだけだ。


「ーー全部君のせいじゃないか」


彼がなぜそんなことを言い出すのか訳が分からなかった。私が辛いのはSARUのせい?いや、そんなことない。SARUは私の恩人だ。彼がいないと今の私はここにない。むしろ正反対のことを、なぜ?


「……バレてたんだ。これでも酷いことをしている自覚はあるつもりだよ」
「やめるつもりは?」
「愚問だね」


ナマエはボクがいなくちゃ駄目なんだよね。怖いくらい強く抱きしめられながら、SARUは私にそう問いかけた。何故今そんなことを、と思わなかったわけではないが、彼の目を見ると首が勝手に動いていた。そうだ、私はSARUがいないと、もう彼しかいないんだ。私の心の中をその想いだけが満たしていき、もうガンマとSARUのやり取りはあまり頭に入ってこなくなっていた。


「ボクならもっとスマートなやり方でナマエの心に入り込んでみせるよ」
「その"スマートなやり方"って前に失敗したあれ?……もしかしてボクが知らないと思ったの?フェーダの皇帝のボクが」


いきなりアレはないよねえ、と心底楽しそうに笑うSARUとは相対的に、ガンマのほうは怒りに震えていた。ついに彼が「貴様っ!」と叫びだし、暴力沙汰になってしまうのかとすこし怯えていたら、さっきまで笑っていたのが嘘のような表情でSARUが喋りだした。


「ナマエにキスしていいのはボクだけなんだけど」


それが言い終わるかどうかのくらいで、SARUは私の顎をすくうように手をやり、次の瞬間には彼の顔がほんの数センチ先にあった。ぼんやりと事態を眺めていただけの私が、それが接吻という行為だと気づく頃には、SARUの舌が私の咥内を犯しはじめていた。息苦しさに喘ぐ私とは正反対にSARUは至極満足そうで、もうそろそろ意識をとばすんじゃ、という一歩手前でようやく解放された。


「こうなるって分かってたら、ナマエをエルドラドにやったりしなかったのに」


このボクに嘘をつくくらい君たちに肩入れしちゃうなんて予想外だよ。
くらくらしていた頭がそれを聞いた途端、一気に冷静に戻った。私がSARUについた嘘。そんなのひとつしか思い浮かばない。早くエルドラドのことは忘れろというSARUの言葉に、私は正直に答えられなかった。やっぱり先程のフェイとの会話を聞かれていたのだろう。


「そんなにナマエに思われてるなんて、君たちに嫉妬しちゃうよ」
「違う!SARUそんなことな」


私にはSARUしかいない。そう必死に紡いだ否定の言葉は、再びSARUの口で塞がれて最後まで言えることはなかった。


「ーーそうやってナマエを思い通りにして楽しいかい?」


二回目の口付けで、いよいよ腰が砕けてしまった私の背中にそんな声が降りかかる。彼、ガンマに二度もSARUとの接吻シーンを見られてしまった。瞬間脳裏に浮かんだのは「恐怖」。一番最低な形で彼らを裏切っておきながら、まだ嫌われたらどうしようなんて考えてしまう自分がひどく浅ましく思える。


「所詮それは傷の舐めあいじゃないか。それで誰が幸せになるというんだ」
「幸せ?そんなものなる必要はないね。だってもうこの世界はなくなるんだから」


私たちを認めない世界への復讐。それはずっと分かっていた、望んでいたはずなのに、幸せになれない。それが酷く恐ろしく感じた。私は幸せになることなくこのまま終わりを迎えるのだろうか。

SARUが「もう行こう」と、私にのばしてくれた手を思わず払ってしまったのは、エルドラドでいた日々が頭を過ぎったからだ。あそこで過ごした時間、たしかに私は楽しさというものを感じていた。エルドラドに戻りたい、そう口にしたときにはもう私の体は地面に転がっていた。

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