「どこに行くの」
ラグナロク三回戦、私達フェーダは勝てなかった。だが負けてもない。所謂引き分けというものだ。おかげで延長戦としてもう一試合することになったのだが、私は前の試合での無理が祟ったのか、とてもじゃないが出られそうにない。「これ以上命を縮めることはない」そうSARUに言われたこともあって大人しくスタジアム内の割り当てられた部屋で過ごしていた。だけど廊下から感じる不穏な気配。気になって抜け出てみれば、そこにはフェイがいた。それ自体は全くおかしくないが、何故かその手には円堂守のクロノストーンが握られている。
「それを持っていったいどこへ?」
「……僕は、雷門に行く」
「フェーダを裏切るんだ」
フェイは私から遠ざけるようにクロノストーンを背に隠す。スパイとして雷門に潜り込んでいたのに、それを持っていくから今度は仲間に入れてくれとでも言う気だろうか。ちゃんちゃらおかしい。誰がそんな馬鹿を許すものか。
「雷門が今更あなたを受け入れるとでも?」
「天馬は受け入れてくれる!僕を、こんな僕に仲間だって言ってくれた!」
「そんな戯言、嘘に決まってる!」
どこの誰が今まで自分を騙していた人間を許すというのだ。おまけに私たちはセカンドステージチルドレン、化物なんだ。他の人間が受け入れるわけがない。
「雷門に行っても絶対に許されない」
「……ナマエ、一緒に行こう」
「私の話を聞いてるの?行くわけないじゃない」
「聞いてるよ、ナマエは帰りたいんだろう?」
私の話を聞いてなぜその結論が出るんだ。私達はもともとフェーダの人間。帰るというならここへのはず。
「雷門を騙して、フェーダを裏切って……今度はなにがしたいの」
「僕はもうSARUのやってることが正しいとは思えない。だから僕を仲間と言ってくれた天馬達と一緒に戦う」
「…………」
「ナマエもそうだろう?君はエルドラドへ帰りたがってる」
「そんなことない!」
SARUは一人ぼっちだった私のそばにずっといてくれた。私を助けてくれた恩人だ。それはフェイにとっても同じはず。なのにそれを忘れて雷門に行くなんて、どこまで自分勝手な考えなのか。
おまけに私がエルドラドに帰りたがってる?たとえもしそうだったらなんというのだ。一緒に帰ろうとでも?ただ裏切ったフェイと私は違う。彼らの仲をめちゃくちゃに壊して裏切ったのだ。今更どの面下げて帰れと?帰れるわけない。
「私にはもうここしかないの!一緒にしないで!」
もうSARUしかいない。じゃないとまた一人ぼっちになってしまう。私が二戦目どんな気持ちでフィールドに立っていたかなんて知らないくせに。
「今更のこのこ帰って……受け入れて貰えるわけがない!」
「ナマエは仲間だったんだろう?受け入れるに決まってる!」
「嘘ばっかり言わないでーー」
つい感情的になってしまい右手を振り上げた。フェイの頬に向けたそれだったが、振り下ろす前に誰かのしっかりとした手に捕まってしまった。
「そこまでにしてもらおうか」
サ、ル。そう口にしかけたが、彼の指がそれを遮る。私を後ろから抱きしめる形で登場した彼に、フェイも私も動揺が隠せない。もしかして聞かれてしまったのだろうか。私にはもう彼しかないのに、この手を離されたらどうしていいのか分からない。けど彼はそんな私の不安まで分かっているかのようで、優しく私の頭を撫でてくれる。
「クロノストーンは持っていってもいいって言ったけど、ナマエは駄目だよ」
「SARU、」
「二度は言わない」
容赦ないその物言いに、彼がもうフェイを仲間として扱ってないのが怖いくらいよく分かる。エルドラドに戻りたいと彼の前で言えば私もああなるのだろうか。そんなの嫌だ。SARUに捨てられたくない、こわい。
「そこの物陰にいる君にも言っておくよ、ナマエは渡さないよ」
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