その日の体調は最悪に近かった。いよいよ本格的に私の体は朽ち果てようとしているらしい。だけどラグナロク二回戦がはじまった今、そんなことは言ってられない。相手は予想通りサカマキ様率いるチーム、見慣れた三人がフォワードとしてすぐそこに立っている。私も痛む胸を無視して持ち場につく。ゴール前、シュートなんて絶対に決めさせやしない。

試合開始のホイッスルと共に、すぐにボールはこちらのチームにやってきた。もともと個性の強い三人が共闘なんて、ましてや今の状況でーーもっともそれを作り出したのは他でもない私なんだがーー出来るわけがない。


「こっちにボールをよこせぇ!」
「誰が君たちの言うことなんか」
「ノー。それでは攻撃には不十分だ」


簡単に私の元へきたボールは、そのままメイアにパス。ギリスとのコンビネーションシュートは見てて惚れ惚れするくらいのもので、感嘆の息をついてるうちにさっさと一点を決めてしまっていた。
所詮エルドラドもこんなものか。私達の目的は彼らを倒して世界を滅ぼすことだと言うのに、それがすこし悲しい。

くだらないことを考えていたせいか、突然メイアが弾かれたように私の名前を呼んだ。ハッとしてすぐそこまでに迫っていたボールを反射的に蹴り返すと、それは勢いそのままフィールドの外へと転がっていった。すこしぼーっとしすぎたらしい。試合中だというのに私らしくない。くらくらする頭を二三振ると、今のシュートを放った本人であるエイナムが心配げにこちらを見ていた。けどそんなのはきっと私の思い込みだろう。本当は憎悪の篭った眼差しを向けているのかもしれない。いつかの練習後私に肩を貸してくれた優しい彼を思い出して、自分がたまらなく嫌になり、視線を下に落とした。

後半になっても彼らは変わらなかった。ある意味彼ららしいとも言える。この試合で私達が勝ってしまえば、三試合することなくフェーダの勝利が決まるというのに。これでようやく私達の、SARUの望みであるセカンドステージチルドレンを認めない人間達への復讐が出来るのだ。私たちは、私は化物だから、今回のことがなくても彼らとともにいることなんて出来ない。そう自分に言い聞かせてボールを蹴る。


「そんな泣きそうな顔でボクに勝つつもりかい?」
「……ええ、私達が勝って世界は滅ぶ。私を認めない人はひとり残らず消えるの」


ボールを持った私の前に現れたのは、見たくなかった顔。相変わらずの物言いでボールを奪おうとしてくる。奪われる前にパスを、そう辺りを見回すけど知らぬ間に辺りを囲まれていたようでどうしようもできない。アルファ様にベータ様にガンマーー三人勢揃いで、こんなときばかり息はぴったりなようだ。ぎりりと歯を噛み締める。


「ナマエを認めない人間?そんな人間どこにいると?」
「そんなの、」
「君の実力を認めているからこそボクたちはこうしてここにいるんじゃないか」
「なにを馬鹿なーー」


私がその言葉に戸惑った一瞬、その瞬間にボールは私の元から消えていた。私達セカンドステージチルドレンを認める人間なんていやしないのに、そんな嘘で私を突破するなんて。私を動揺させるなんて、


「許さないっ!」


即座に身を翻してゴール前まで戻るが、一歩及ばす。必死に伸ばす足を無視してボールはゴールに突き刺さった。「おーっと!ついに同点に追いついたあ!」表示される1-1の文字が信じられない。さっきまで相手のことなんて考えていないプレイを続けていた人間が、私達を抜くなんて。


「負けるなんてーー」
「残念だけどこのボクが君を負かすよ」


点を取り返さなければ。私は負けるわけにいかないんだから。だけど奴の宣言通り、私達が勝つことはなかった。


「ここで試合終了だぁ!勝ったのはなんとエルドラド!」


なんで負けたんだろう。信じられない現実に、滲む視界。勝ってケジメをつけないと、そう決めたのに私はそれすら出来ないのか。フィールドの反対側で勝利を噛みしめる彼らの姿に自分の立ち位置が歪む。彼らを裏切って手にいれたのがこんな敗北というのは、私への罰なのだろうか。

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