ようやく再教育期間が終わり、出所することが許された私達だったが、転送装置を抜けた先は見たこともない場所だった。エルドラドのビルに通じているはずが、なぜ見たこともないスタジアムにいるのだろうか?
一歩一歩、私の前を警戒するように歩いていくガンマ。結局あれから皆の関係を改善しようと幾度となく努力はしたものの、改善どころが改悪されたかのように雰囲気はどんどん最悪なものに変わり果てていった。なるべく一人で行動しようにもうまくいかず、もしかしたら私の他にもなにか原因があるのかもしれないが、結局険悪なまま出てきてしまった。唯一、ガンマだけはいつもと何も変わらず「真実の愛」とやらを謳っていたが、それが拍車をかけるように更に関係は悪化していった。

そして今もぎすぎすとした空気を抱え、この謎のスタジアムを進み行く。しばらくすると人の気配と話し声があり、反対側から見知った顔がこちらへ向かってきた。


「マスター!」


お前たち無事だったのかと安心したように声をかけてきて下さるマスターの後ろには、何故か雷門の人間が並んでいる。しばらくムゲン牢獄にいたせいかこちらの近況が全く分からない。なぜ雷門イレブンがここに?誰もが困惑したかのように視線をマスターへ向けると、彼は重い口を開いた。

セカンドステージチルドレンが、ラグナロクを申し込んできたとーー。

ラグナロクとは北欧神話における世界の終末のこと。世界の命運がかかった勝負にそんな名前をつけるなんて、セカンドステージチルドレンはなかなか洒落ている。勝負をする前から世界は滅ぶと言いたいだけかもしれないが、絶対にそうはさせない。

三度サッカーの試合を行い、私達エルドラドが負ければ世界は終わり。シンプルかつ分かりやすいルールだ。これに雷門の人間にも協力してもらい三回戦を勝ち抜く、というのがマスターの話だったが、ムゲン牢獄で鍛えられた私達に彼らの助力などいるのだろうか。協力する気などさらさらない、それがエルドラドの人間の総意だろう。それに加え今は関係が悪化している。エルドラドの人間内でも争いが起きかねない。
そう考えると私をベータ様達とは別のチームにしたのは正解だっただろう。今一番関係が悪いのがベータ様とエイナムだ。その二人から私を離せば少しはましになるかもしれない。あくまで願望だが、夢を見るのは個人の自由だ。

私が振り分けられたチームの監督は鬼道有人、キャプテンは剣城京介。どちらも雷門の人間だ。それにキーパーも雷門側。与えられたデータを一通り見ていくが、私はフォワードのようだ。どこのポジションでも一通り出来るが、今まで回ってくることがなく、エルドラドではまだ未経験だ。なのに何故私をそんなポジションに。本当にこれで勝てるのか。そんな不安しか湧いてこない。


「君はナマエだよね?同じチームメイトとしてよろしくね」


知らぬ間にデータを食い入るように見ていた私を現実に引き戻したのは、あの鮮やかな髪色をした少年。


「僕はーー」
「フェイ・ルーンでしょう、存じてます」


これまで幾度となく私達の邪魔をしてきてくれていた相手なのだから、今更自己紹介など必要ない。エルドラドのデーダベースに存在しないとはいえ、これまでの交戦記録からラグナロクに必要なデータは十分揃っている。ポジションはフォワード、化身アームドに加えミキシマックスの力を備えた強力な選手であることは違いない。


「必要以上に雷門の方と慣れ合う気はありません。私のことはどうぞ放っておいてください」


マスターの命令でなければ誰がこいつらと。サッカーを守るためだか知らないが、そのせいでセカンドステージチルドレンなんかが誕生したんだ。
それに……彼を見ていると頭が、痛い。言葉を交わす事に増す痛みに、再三記憶を遡ってみるが彼とミッション以前に出会ったことはない。


「ねえ、君って僕とどこかで会ったことあるっけ?」


なのに次に彼から出てきた言葉に私は凍りつく。今まで私達のミッションを何度も邪魔してくれたじゃないですかと、わざと彼が望んでいるものとは別の答えをしたが、彼がそれ以上追及してくることはなかった。そうだよね、変なこと聞いちゃったねとあっけからんと笑う彼が私のことを疑惑の目で見ているのは、誰の目から見ても明らかだったが。

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