私が願っていたベータ様との再会は、驚くほど早かった。望んでいない形で叶えられたそれだが、私の姿を見るなり飛び込んできた彼女に、すこし気分は軽くなった。


「ナマエまでこんなところに来ちゃうなんて悪い子ね。けど久しぶりに会えて嬉しいからいい子、ってことにしといてあげる」
「ありがとうございますベータ様」


こんなところでなかったらもっと良かったのに。一瞬で鋭くなったベータ様の目が次に捉えたのは、私の横に立っているガンマである。


「あら、誰かと思えばガンマじゃない。無駄に有り余っていた自信はどちらへいったのかしら?ナマエまでこんなとこに連れてきてくれて、いったいどうするつもりよ」


こんなところ、先程から繰り返しそう呼ばれるここはMUST GENERIC TRAINING CENTERーー通称MUGEN牢獄。恥ずかしながらザナーク・アバロニクの介入を許し、ミッションをコンプリート出来なかった私達はすぐにここへ送られた。ザナークの介入があったとはいえ、失敗の根本的な原因は実力不足。大人しく再教育される他ない。


「ザナークさえいなければ雷門などに遅れを取ることなんてーー」
「言い訳ですの?醜いですね」


やっぱりあなたにナマエを任せるなんて到底無理でしたのね。そうガッチリとベータ様に胴を固定される。再教育の成果か、前より力強さを感じられたそれに、簡単に抜け出せそうにない。


「ならばここで勝負といこうじゃないか。泣いて謝るなら今のうちだよベータ」
「あら、再教育された私の力見ちゃいます?」


だが持ちかけられた勝負のおかげでそこから抜けられた。ベータ様はあんなに強くなられたのだから、私もそれに見合うくらいに頑張らねばならない。まずは準備運動と伸ばした腕を、今度は別の誰かが引っ張った。グラっと揺れた体を支えてくれたのはよく見知った顔で、けど最後に会ったときの出来事のせいか、うまく言葉が出てこない。


「……今、いいか?」


遠慮がちに紡がれた言葉に無言で頷く。彼、エイナムは掴んだ手を離すことなく、そのまま部屋の隅へ移動した。


「……なぜだろうか。おまえを見ていると、誰にも渡したくないと思ってくる」
「え、」
「ベータにもガンマにも……アルファにでさえも」


そう言った彼の目は先日のエイナムの姿を思い出させるような鋭いものだった。思わず一歩後退るが、すぐに腕を引かれて距離を詰められてしまう。腕を掴む力が強まり、私は顔をしかめるが彼は楽しげだ。


「ちょっと!ナマエを虐めてるんじゃないでしょうね!」


そろそろ骨が悲鳴をあげそうだと思いはじめていたら、ガンマと勝負をしに行ったはずのベータ様が間に入ってきてきださった。私を背に庇うポーズをとった彼女は、エイナムの姿を見るなり顔を歪めた。


「この子で遊んでいいのは私だけなんだけど?勝手に近づかないで!」


はじまってしまったベータ様とエイナムの論争を止めることも出来ず、私はただおろおろとするしかなかった。誰かに助けを求めようと辺りを見渡すも、気づけばここにいる全員が既に一発触発といった雰囲気を纏っていた。確かにもともと自分の従うリーダー毎に見えない派閥のようなものはあったが、それでも皆優しい人達だった。何が原因でこうなってしまったのか。

トントン。悩む私の肩を叩く手に、過剰に反応してしまったのは、そんな今の空気が大きく関係している。警戒して振り向けば、そこにはいつもと何一つ変わらないように見えるアルファ様がいた。彼とも会うのは久しぶりだが、今の状況ではいつもと変わらない彼に安心する。


「ナマエといると頭がおかしくなる」


だけど彼から出てきた言葉は、私を拒否するようなもので、安堵の気持ちが一転、地獄へ突き落とされたような気になる。


「それは、私といると……不愉快ということ?」
「ノー。ナマエといると何故か独占欲というものが沸いてくる」


アルファ様の言葉についさっきのエイナムの言葉が重なる。おまえを見ていると、なぜか誰にも渡したくないと思ってくる。ここまで言われて分からないくらい馬鹿じゃない。私のせいだ。私の何が皆をそんな気持ちにさせているのかは分からないが、私が今の状況を作り出している。私が、皆をおかしくしてる。

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