「昨日は取り乱してしまって……申し訳ありませんでした」


意外。正にそう言った風に男は目を丸くした。

集合時間よりも大分早く来たはずだったが、その場所にはいつもの男ーーガンマがすでにいた。私の勝手なイメージでは、全員が揃ってから悠々と登場しそうだったのに、想像に反して彼は真剣な面持ちでミッションデータを確認していた。
彼は私が来たことにすら気づいていなかったようだったが、こちらから挨拶するとハッとしたように顔をあげた。やあナマエ、大分早いじゃないか。貴方こそ。なんて会話を交えながら盗み見た彼の手には、昨日の傷がまだ痛々しく残っていた。


「みっともないところをお見せしてしまい、恥ずかしい限りです」


そして冒頭。昨日は彼に対してかなり失礼な態度をとってしまった。ベータ様がムゲン牢獄送りとなったのは確かに悔しいが、マスターの命令だ。従う他ない。彼がキャプテンに就任したのだって同様。あげく私の怪我の手当までさせてしまったのだから、あわせる顔がないとはこのことである。


「なんの謝罪かと思えばそのことか。ボクは気にしてない」
「いいえ、私が気にしますので」
「ボクとしては告白を蹴られた事の方が気になるんだが」
「それは……」


まさかここでそのことを堀返されるとは思ってもみなかった。冗談ならばいいのだが、彼の目は真剣そのものである。


「……なぜ貴方は私を選ばれたのですか?」


日に日に増えていく贈り物を横目に、この男がこうも自分に執着するのはなぜか、私は肝心な部分を未だ知らされていない。真実の愛だなんぞとほざく前に、そこのところをハッキリとさせてほしいのが当然の心理だろう。


「スマートに言えば一目惚れ、ということだろう。だがボクのナマエへの愛はこうして日々共に過ごすことで深まってーー」


一目惚れ、というにはおかしい。私とこの男の出会いは、あのどう考えても失敗する告白の見本事件があった正にあの時である。それ以上記憶を遡ってもこの男の姿は影も形もない。なのに自信たっぷりに愛を語るなんて、彼にはひょっとすれば妄想癖があるのかもしれない。そう思うと、自然と足が彼から距離をとった。


「……なぜボクから遠のく?」
「危ない方、かと思いまして」


彼は当然のように猛反論を繰り広げてきたが、その半分以上を私は聞き流していた。だが心の内はそれほど嫌でもなく、彼のあまりに必死な様子には思わず笑みが溢れた。
ときにその考えが分からず恐怖を感じたりもしたが、随所随所で私のことを案じてくれる優しさに触れることが出来る。それを踏まえると前ほど彼に対して無関心や嫌悪を貫けなくなっている自分がいた。

ミッションの時間が刻一刻と迫ってきている。今回は中世フランスへと赴き、奴ら雷門が二の力を手に入れることがないよう阻止。前回のミッションに私は参加出来てないが、あのベータ様を打ち破った敵を私は止められるのだろうか。いや、こんなことで弱気になっていたらルートエージェント失格、セカンドステージチルドレンにも負けてしまう。しかし身近に迫ってきたムゲン牢獄の恐怖が私を脅かす。


「ナマエ、心配することはない。このボクがあんな簡単なミッション、失敗することはない」


だから安心しろと言わんばかりに肩に置かれた手。相変わらず自信が有り余っているようだ。それでも先ほどの真剣な表情を見た後だと、はじめて会ったときとは抱く感想が全く違う。ありがとうございますと、置かれた手にはじめて自分の手を重ねた。

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