パティとの再会は唐突で摩訶不思議なものだった。
 半泣きで彼女を探していたら、砂の中を蠢く物体がユーリの足首に飛びついたのだ。カロルの悲鳴を背景に、砂を払いのけると、なんとそこからパティが出てきたという奇怪な話なのである。

 そこからは再会できたパティに心配と怒りが半々のような話をしながら、凜々の明星の仕事っぷりを見守っていた。
 本当はパティと出会えた時点でさよならする予定だったのだけど、首根っこを掴まれ結局彼らといる。パティを探すのを手伝ってくれた恩があるから文句はないけれど。
 時折、またふらふらとはじめるパティをラピードが連れ戻してくれるのを見ると、砂漠から出るまでは彼らと一緒にいたほうがいいのかもしれない。


「僕もう砂しか見えなくなってきたよ……。僕が倒れたらレイヴンよろしく」
「アルフとライラだかの両親を探すんでしょ?がんばれカロル!」
「そうだぞ少年。それに俺様の背中は女性専用よ」


 体が小さい分体力の消耗が早いのか、カロルはレイヴンにいざという時の助けを求めたが、肝心のレイヴンは何処吹く風でジュディスたちに視線を投げかけている。

「ああ、あたしは死んでも倒れないわ」
「わたしもご迷惑らかけません」
「もちろん、私もね」


 当然にべもなく断られたレイヴンが落ち込むまでがいつもの流れだ。カロルもすこしは元気を取り戻したのか、肩を落とすレイヴンの横をさくさく歩いていく。


「えー、じゃあもしものときのために、私がレイヴンの背中予約しとこうかな」


 ふとトリムでのことを思い出し出た言葉だったが、その途端に周りからぎょっとした目を向けられる。正直なところ、レイヴンまでもがそういう目で見てくるのはすこしばかり心外だ。
 目を釣り上げたリタがずんずんと近づいてきたかと思うと、恐ろしい顔で私の首を揺さぶる。


「……あんた正気?暑さで頭やられてんじゃない?」
「だって背負ってくれるっていうなら背負ってもらわなきゃ損じゃない?」


 前に背負ってもらったときも全然嫌じゃないどころか、ぐっすり快眠してしまった私としては何の問題もない。
 続けて言うと口をぱくぱくとさせて驚くリタ。その反応はいささか失礼な気がしなくもないが、これ幸いと彼女から逃げ出し、なにか声をあげるエステルの元へ向かう。


「なにかあったの?」
「アルフとライラの両親が見つかったんです。無事でよかった……」


 エステルの近くにいる男女は、たしかに多少の日焼けはあるものの、他は五体満足で無事だといえる。
 ただ凜々の明星の仕事はもうひとつある。エステルをフェローと会わせることだ。この夫婦が二人だけで街まで帰れるわけもない。それまで彼らには付き合ってもらうことになるだろう。

 この見通しの良い場所でまだ影も形もないものを探すというのは大変だ。水分補給をしつつ、辺りを見回すと、タイミングを図ったかのように鳥の嘶きが響く。
 ダングレストでも聞いた声、間違いなくフェローのものだ。

 アルフとライラの両親を庇いつつ、声を頼りに進んでいくが、発生源と思われる場所に近づくにつれ違和感を覚えずにはいられない。


「声が、変わってる……?」


 たしかにフェローのものだった声は、次第に全く別のものへと変化していく。
 そしてなにもなかった空間から突然、半透明の生物が出現した。魔物とはどこか違う底知れぬ生物に、いつも強気なラピードまでもが及び腰になっている。

 こんな見たこともない生物、関わっても得などあるはずがない。だけど逃げようにも向こうはこちらを狙い突進を繰り返してくる。
 非戦闘員の夫婦を物陰へと避難させ、自らの武器をその半透明の体に突き刺すが、見た目とは裏腹に攻撃は簡単に弾かれてしまう。


「ナマエも隠れてていいんだぞ。これは俺たちの仕事だ」
「馬鹿言わないでよ。ユーリたちがやられちゃって、一人でこいつ相手するほうが大変じゃない」
「それもそうだな」


 半透明の体の奥には、なにやら球体状の核のようなものが見える。それを壊せばどうにかなるかもしれない。
 だけど激しい攻撃を避けるだけでどんどんと体力の消耗していくこの砂漠で、正確に狙いを定めて攻撃するのは困難だ。

 じわりじわりと攻撃を加えていき、ユーリがトドメの一撃を当てるときには既に皆体力など使い切っていた。目論見通り核を破壊した途端、あの生物は文字通り消えていったが、これでは街へ戻るのも至難の業だ。


「はぁ……僕、もうだめ……」


 一人、また一人と地に伏していく。
 私の体もそれに倣って大きく傾くが、自分の得物を支えに体を起こす。布越しでも膝に伝わる熱が体力を更に奪っていく。


「ここで、倒れるわけには……私、死にたくない……」

 目前に死を見た恐怖故か、ふと視界の先に街が見えた。
 降って湧いた希望に、がくがくと震える膝をむりやり起こし、二三前へ進む。それが限界だった。糸の切れた人形のように、ぷつりと前のめりに地面に倒れる。
 最後の景色は涙が滲んでよくわからなかった。

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