さて、どうしよう。
 ユーリたちと別れ、マンタイクをパティと二人出発したのはいつのことだっただろう。それほど昔のことではなかったはずだ。
 なのになぜ私は一人、砂漠のオアシスで黄昏ているのか。

 慣れない砂漠に足をとられている私の横で、パティが遠くの方に光るなにかを見つけたときのことだ。私の声など聞こえないのか、一目散に走っていってしまったパティ。慌てて私も後を追ったが、見慣れた彼女の帽子しか見つけることは出来なかった。
 そうしてパティを探してるうちに、オアシスにたどり着いた。冷たい水に足を沈めていればなにかいいアイデアが出るかもしれないと思ったが、どうもそうにはなりそうにない。かといって一人で宛もなく砂漠を動き回るのは危険だ。


「一度街に戻るべきか……でもそうなると時間がかかりすぎるし……」


 いくら考えてもうまい案が出てくることはない。パティのことだ、今頃どんな危険なことに挑戦してるか分かったもんじゃない。
 とりあえず、もう一度辺りを見てくることで決着をつけ、オアシスから上がろうとしたそのとき。後ろから砂漠にはふさわしくない子供の声が聞こえてきた。その正体を確かめようとしたが、私が振り返るよりも早く何かが背中にぶつかってきて、その反動で見事に頭から水を被ることになった。唯一の救いは荷物は別に置いておいたことだろう。


「ああああ!ご、ごめん!……ってナマエ?!ほんとごめん!」


 起き上がり、前髪から垂れる雫の合間から声の主を確認する。うん、何度見てもカロルだ。はっきりとは見えないが、その奥にはいつものメンバーもいることだろう。


「砂漠の真ん中でカロルに出会って、オアシスに突き落とされる確率ってそう高くないよね?」
「運命の出会いってそういうものじゃないかしら」
「嫌だよ、そんな運命。あ、ジュディスありがとう……」


 ジュディスに腕を借り、ようやく水の中から脱出する。ぼたぼたと全身から流れ落ちる水に、今の状況も合わさって気分が滅入ってきた。
 頭にのせていたパティの帽子も、水を吸い、悲惨な有様となっている。


「ナマエ……怒ってる?」
「そりゃあね。けどカロルはお詫びに私のお願い聞いてくれるって信じてる」
「え、なにその不吉な顔。変なこと言う気じゃないよね?!」


 いったいどんな無茶ぶりを言うのかと、話をする前からカロルは逃げ腰になっている。カロルの中での自分の評価が大変気になるところだが、今はとりあえず勢いよく乾いた地面に頭をこすりつけた。


「パティを探すの手伝って下さいっ!」



* * *



 土下座からのお願いの後、意味がわからないという顔をする彼らに一から順に説明をすると、素直に心配する人から頭を抱える人まで反応は様々だった。
 この広大な砂漠で一人の人間を探し出すのに心が折れかけている私からすれば、もう反応なんてこの際どうでもよくて協力者が欲しい。

 だけど流石義を掲げているギルド凜々の明星。嫌と言えるわけもなくーーまあ断るつもりもなかっただろうけど、二つ返事で了承を貰った。


「皆と会えなかったらパティと永遠の別れを覚悟しなきゃならないところだったよ」
「そ、そうならないよう一生懸命探そうね」


 笑顔で笑えない冗談をぶっ飛ばすとカロルの顔が引き攣った。
 パティの能力を見る限り一人でもそうはならないとは思うが、万が一ということもある。


「それにせっかくパティと会えたのに、もう別行動とか意味無さすぎるし……」


 だからこそ一刻も早くパティと合流しようと、決意をため息と共に吐き出すとエステルが私の顔を覗き込んできた。


「ナマエはブラックホープ号事件について調べてるんですよね?」
「でもあの事件に関しては皆が知ってる以上の情報は出てこないんじゃない?もう何年も前だし、肝心のアイフリードも行方不明で」
「…………私、アイフリードが犯人だとは思ってないから」
「え、でも帝国の発表だと……」


 エステルには悪いが、私は現在公表されているブラックホープ号事件に真実があるとは思えない。乗客を皆殺しにしても海精の牙には徳がないどころか、汚名しか残らない。そもそも海精の牙の構成員までもが一人も見つかっていないのもおかしい。生きているにしても死んでいるにしても変な話だ。
 後はアイフリードはそんなことをしないという私の私的な感。

 だからこそ何か帝国側の不利になることがあり、その為にアイフリードを利用したと考えている。


「例えば例の先帝殺しが船に乗ってたとか、ね」


 先帝殺しの疑いがあるミョウジは騎士団の人間だ。評議会の手に落ちて、後々不利な立場になるくらいならば、自らの汚点は自分たちで塗りつぶしてしまえばいい。


「…………ナマエはそう思ってるんですね」
「うん、ごめんね。でも予想が外れてくれたらいいなとも思ってるの私」


 この考えだと、一人の罪を隠す為だけに多くの人間の命を奪ったことになる。酷いことだが、そういう考えをもった人間がいることも事実。真っ向からありえないとはとてもじゃないが言えない。
 城に事件の資料が一切残っていなかったのも、より私の考えを強固にさせた。

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