かつては罪人同士を戦わせ、貴族たちの熱狂と狂乱を呼び、今はギルド"戦士の殿堂"が闘技場の運営権を持ち、市民の娯楽の場となっているーーそんな闘技場からは間髪入れずに花火が打ち上げられている。
闘技場都市ノードポリカは夜だろうが関係なく、盛り上がりを見せたままだ。
無事ノードポリカに着いたから、凜々の明星は船を一隻手に入れることになる。古くなっていた駆動魔導器も新調されることとなったらしいし、立ち上げたばかりのギルドとは思えない装備だ。
まあそのおかげで私もタダでここまで来れたのだけど。
「皆はこれから砂漠にいくんだよね?死なないように頑張ってね」
「ちょ、ナマエったら不吉なこと言わないでよ!」
「そう思うならあんたからこの馬鹿になんか言ってやってよ。あんなところにエステルを行かせるわけには……」
えらくエステルを心配するリタに、以前遺跡で自分が言っていたことを唱えたらどうなるんだろうか。なにかを得るためにリスクがあるなんて当たり前。ただの爆弾投下にしかならないから絶対に言わないが。
それだけリタも変わったということだろうか。
「そう言ってもさ、行きたいなら仕方ないよね。まあ私なら絶対にごめんだけど」
「あんたってそういうとこ、ほんとブレないわね」
「やだなぁ、褒めてもなにも出ないよ」
こういう軽口もさておき、私もそろそろこれからの同行を考えなければならない。とりあえず帝国から離れようとノードポリカまで来たはいいが、来た後のことはあまり考えていなかった。
夜でも変わらず商売をする露店を眺めつつ、自分の行き先をのんびり考える。エステルたちは砂漠へ、レイヴンはベリウスに会いに、パティは…………宝探し前に買い物だろうか。露店のおばちゃんに品物を指定している。
「これとこれ、くれなのじゃ」
だがそこに慌てたように走ってきた一人の男性が、なにかを店の主に耳打ちした。するとどうだろうか、愛想の良かったおばちゃんの顔が、見るみる間に曇っていった。
「あのぉ……その格好、すいませんがあなたアイフリードのお孫さん?いやね、ちょっとした噂が流れてるんだ。アイフリードみたいな服着てその孫だって名乗る娘がいるって……」
その言葉に、思わず息を呑む。
まさか、パティがあのアイフリードの孫だというのか。知らず知らずのうちに拳に力が入り、爪が皮膚を突き破る。
一方パティはなにも言い返すことはせず、俯いたまま示された金額を支払った。
「あ、あの……もううちにはあまり、来ないでいただけますか、ね……」
「それは……うちがアイフリードの孫だからかの?」
「えと、そのですね……うちは別にいいんですよ、でもね、ほらお客さんとかが」
「え?いや、ちょっと待ってくださいよ!」
何を言えないパティを前に、店の主と男は責任の押し付け合いをはじめた。ギルドの面汚しの孫に物を売りたくはないが、自らがその先頭に立ちたくはない。仕方なく売れないのだという建前を欲しているのだろう。
「……くだらねぇ話してるじゃねえか」
そんな彼らに嫌気が差したのか、後ろで見ていたユーリが一歩前へ出た。
例えアイフリードが悪人であっても、パティには何の罪もない。そう言われてしまえば店の主は何も言えず黙り込んだ。
「心配せんでも、うちはすぐにこの街を出ていくのじゃ。うちにはうちのやることがあるのじゃ。色々と世話になったな」
んじゃの。
それだけ言い残すと、パティは街の外へと走り去ってしまった。アイフリードのーー自身の祖父の宝を探しに行ったのだろうか。
彼女の背中を追って無意識に動き出した私をカロルが不思議そうに呼ぶ。
「……あのさ、私ももう行くね。ちょっと用も出来たし」
リタと話も出来たし、私がこれ以上彼らと同行する必要はない。むしろ一緒にいたほうが騎士と遭遇する機会も多そうだ。また連行されたらたまったもんじゃない。私の口も、また何か余計なことを言わないとも限らない。
……潮時なのだ。
「パティを追うんですか?」
心配そうな顔でエステルが問いかけてくる。なんでそんな顔をしているのかと頭を傾げると、呆れたようにリタが教えてくれた。
あんた、アイフリードの名前聞いてからずっと険しい顔してるわよ。
なるほど。知らず知らずのうちに眉間に皺が寄っていたらしい。そんな私は周りからどう見えたのだろう。アイフリードを憎んで見えたかな。
「……追いつけなくなると嫌だから、じゃあね」
軽く手を振って、彼らと別れる。顔はよく見なかったし、返事を聞くよりも早く駆け出した。
ずっと探していたんだ、アイフリードへの手掛かり。すこし風変わりだとは思っていたけど、パティがその孫だったなんて。
絶対に、追いついてみせる。
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