髑髏の騎士を退けたことで"呪い"が解けたということなのか、あれほどまでに開かなかった扉は不思議なくらい簡単に開いた。ようやく船に戻れた私は、再びノードポリカまでの航路をのんびりと船室で過ごすことにした。結局あの髑髏の騎士が何だったのか、よく分からないまま。もしかしたらあれが幽霊だったのかもしれない。

 エステルの「小箱をヨームゲンに届けたい」という願いを叶える為に持ち帰られた小箱は、今しかめっ面のリタの前にある。扉は開いたが、この箱だけは変わらずにびくともしないのが気になるようだ。


「魔術でもナマエの馬鹿力でも開かないとなると、ただ堅いだけとは思えないわね」
「うん、何気に失礼だよねそれ。私、か弱い女の子!」
「アホらし……。それで話って何なのよ」


 箱について考えるのは一先ず諦めたのか脇へと寄せると、くるりと私に向き直った。
 話があると呼び出したのはたしかに私だが、これまで小箱に夢中だったのはリタの方だ。なんかすこしばかり釈然としない気持ちを抱え、私もリタに向き合う。


「リタのくれたこの本、読み終わったから、ちょっと質問」
「ああ、そんなこともあったわね。で、どこが分からないのよ」
「濃度の濃いエアルは人体に悪影響なんだよね。じゃあエアルが薄くても人体に影響があるのかな、って」
「そりゃああるでしょうけど……エアルは濃度を一定に保つ性質があるから、滅多なことじゃ人体に影響なんて……」


 エアルは生命にはかかせないが、濃度が濃い場合は有害となる。そんなエアルには濃度を一定に保とうとする性質があり、濃度が薄まると新たなエアルを地中から供給すると言われている。
 だから人体がエアルの濃度に疑問を抱くことなど普通はないのだ。


「けど、もしエアルに過敏に反応する人間がいるとしたら……?」


 普通の人間なら耐えられるエアルの増減に過敏に反応してしまう。もしそんな人間がいたとしたらどうなるだろうか。
 私の言葉にリタの顔が一気に曇った。
 カルボクラム、ヘリオード、ケーブ・モックで私が調子を崩していた姿が思い出されたのだろうか。そのどれもで有害な量のエアルが溢れており、私は早々に白旗をあげた。
 それだけじゃない。近くでエステルに術を使われると、すこし息苦しさを覚える。これは彼女が魔導器を使わずに術を発動出来ることになにか関係があるのかもしれない。


「あ、あんた……まさか、」
「もし有り得ないなら私の勘違いかな……って」


 そうは言っても自分の体は自分が一番よく分かっている。おそらくそうだと言うことはリタの返事を聞くよりも早く分かっている。


「有り得なくはないと思う。けど、そこまでエアルに過敏に反応するってことは……よほどエアルと親和性があるとしか思えない。エアルと親和性を持つような出来事が過去にあったか、生まれ持ってのものかは分かんないけど」
「私とエアルに親和性を持つような出来事って…………たとえばどんな?」
「そうね……一度すごい量のエアルを体に流してみるとか?まあそんなことしたら肉体が耐えられなくて変異する可能性の方が高いけど」


 濃いエアルによって植物が異常発達し、魔物まで影響を与えていたケーブ・モックの光景がありありと脳裏に蘇る。
 人体にまで影響を及ぼすというのなら、エアルの量はきっとあの時の比ではない。その何倍ものエアルを浴びるなんて機会、普通の人間にあるわけがない。


「…………ねえリタ、もう一つ聞いてもらってもいいかな?」
「なによ、これ以上あたしを驚かすこと言うつもりじゃないでしょうね」
「それはどうかな。期待に沿えないかもしれないなあ」


 足首にある武醒魔導器をごとりと外す。親父さんに貰ったときよりすこし傷の増えたこれに、今まで何度助けられたことだろう。
 ヘリオードでこれがなくても治癒術が使えたときは本当に驚いた。今までそんなこと一度もなかったから。だけど今もう一度こうして唱えてみるとどうだろうか。


「え……どういうことよ、これ……」


 あの時は確かに武醒魔導器なんてなくても治癒術が使えた。それは私だけじゃなくて、リタもエステルもユーリも見てる。
 なのに今私が唱えた術は、その効力を見せなかった。いつもの淡い光は姿を表すことはなく、リタは驚きを隠せないようだ。


「ヘリオードで魔導器無しで術が使えて……あれからこっそり試したの、一人のときに。やっぱり魔導器無しじゃ無理だった」
「嘘……だってガスファロストでも確かに魔導器を介さずに術を発動させてたはずよ!」


 普通の人間じゃ有り得ないほどにエアルに過敏に反応し、魔導器無しでも術が使えたりする私。昔はこうではなかったはずだ。魔導器が無いのに術が使えるなんて、出来たことない。


「私の身体、どうなっちゃってるのかなあ……」

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