一晩かけて作り上げた衣装は、どうやらジュディスを満足させられる出来だったようだ。作ってる最中はなにも思わなかったのに、こうしてジュディスが着てしまうと、どうしてか卑猥なものに見える。
「ナマエ、おまえ……」
「私も今焦ってるんだけど。美人が着るとあんな風になるとか思ってなかったから」
戸惑う私たちをよそに、彼女はさっさと色仕掛けに向かってしまう。慌てて私たちも物陰に隠れるが、彼女に翻弄される騎士がすこし可哀想に見える。
あんな格好をした美人にいいことしようと誘われてのらない男はいないだろう。断り切れずに連れて来られた騎士に、内心謝りつつも殴りつける。
上手くいったわ、と満足げなジュディス。カロルは大人という生き物にすっかり幻滅してしまっている。
「この服は目立つから着替えてくるわ。あなたに返せばいいかしら?」
「いや……ジュディスのサイズで作ってるから返されても着れないんだけど私……」
「なら有り難く貰っておくわね」
着替えに宿屋に向かったジュディスを見送り、すっかり意識を飛ばしてしまった可哀想な騎士から兜を剥ぎ取る。その下からはだらしなく伸びきった顔が現れて、更に申し訳なくなる。
「ほら、次はユーリの番」
せっかくここに騎士の鎧があるのだから、使わない手はない。上から下まで全部毟り取ってそれを渡すと、多少嫌がりながらも着てくれた。
あとはジュディスが戻ってきたら、下へ向かいポリーの父親を探すだけ。
…………だったはずなのに、詰所が大変なんだ!と叫ぶ騎士に連れられてユーリは行ってしまった。ちょうど宿屋から戻ったジュディスがそれを見て首を傾げた。
* * *
帰ってきたユーリはせっかく調達した鎧を脱ぎ捨て、何故か隣にリタを連れている。詰所で暴れていた魔道士というのはリタだったらしいが、なにがどうしてこうなったのか。聞きたいような聞きたくないような。
というか、リタが暴れる原因なんてそんなにいくつもないような気がーー
「だって、怪しい使い方されようとしている魔導器ほっとけなかったから」
予想通りの答え。むしろそれ以外だったら慌てるところだった。
リタもここの結界魔導器が気になって、エアルクレーネの調査に行く前に立ち寄ったらしい。すると夜中にこっそり労働者キャンプに兵装魔導器を運び込む場面を目撃、気になって忍び込んだら捕まった……と。
街の人を脅し無理矢理労働力とし、兵装魔導器をかき集めるなんて、どう考えても怪しい。
その疑問を解消する為にも、当初の予定通り下に向かう。早くしないと見張りの騎士が起きてしまうかもしれない。
ただ私たちより先に昇降機にお客さんがいるのを見て、慌てて物陰に隠れる。これからのことも考えてフードも被ると、すこしだけ視界が悪くなる。
「おお、マイロード。コゴール砂漠にゴーしなくて本当にダイジョウブですか?」
「アレクセイの命令になんて耳を貸す必要はないね。僕はこの金と武器を使って、すべてを手に入れるのだから」
「そのときがきたら、ミーが率いる"海凶の爪"の仕事、誉めてほしいですよ」
相変わらず気持ち悪い個性的な鎧を着込んだキュモールと、それに負けず劣らず個性的な喋り方をする男。
「僕は騎士団長になる男だよ?ユニオン監視しろってアレクセイも馬鹿だよね?そのくせ友好協定だって?僕ならユニオンなんてさっさと潰しちゃうよ。君たちから買った武器で!」
明らかに第三者に聞かれては不味い内容なのに、キュモールは高らかにそう言いあげると、昇降機で降りて行った。
その横でイエガーと呼ばれた男は、こちらを見て不敵に笑ったのだ。
「あたしたちを馬鹿にして……!」
「私たちより馬鹿な格好した人は隣にいたのにね」
おまけに考えることも馬鹿。騎士団長にはなれるものならなればいいが、ユニオンは眼中にないとか、潰すとか、随分好き勝手言ってくれる。
とりあえずはキュモールに騙されている下の人たちを解放しようと、わたし達も昇降機で下へ向かう。
からからと音を立てる昇降機ががしゃんと地面へ着くと、そこは想像以上に酷い場所だった。騎士が倒れている男性に容赦なく鞭打ちするなど、どう考えても常軌を逸している。
そんな騎士を蹴散らし、一人、また一人と市民を上へ帰す。
貴族になれるという甘い餌で労働力を集め、ダングレスト侵攻の為に軍事基地を作らせる。先ほど上でキュモールが言っていたことは本当だったらしい。
どんどん奥へキャンプを進んでいくと、そこでまたキュモールとイエガーを見つけた。その周りにはユーリが散々お世話になった赤眼の一団も確認できる。
イエガーの指示一つで動く赤眼たち。彼が奴らの首領で間違いないだろう。上でイエガーは「ミーが率いる"海凶の爪"」と言っていた。海凶の爪は武器を売買する商業ギルド。その裏で仄暗いこともしていると風の噂で聞いたこともあるが、これがそうなのだろうか。
「サボっていないで働け!この下民が!」
これ以上関わるのは危ないかもしれない。そう思って足を引いたその瞬間、不運なことにキュモールの顔面に石が綺麗な弧を描いて飛んでいき、あまりに見事な光景にふふっと笑ってしまった。
一瞬にしてキュモールと皆が私を振り返ったが、あの石をユーリが投げるとこ見ちゃってるんですけど、なにこの理不尽。
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