ヘリオードに着いたはいいが、早々に異変を感じられた。以前より閑散とした街はどこか重い空気を漂わせている。
 街の建設作業が厳しくて逃げ出す人が多発している。そんな噂を聞いたからにはほっとけない病のエステルが黙っちゃいない。前回暴走した魔導器のこともあるので、とりあえず街を見て回ることにした。
 結界魔導器はどこもおかしいところはなく、あれから暴走などしていないのが見て分かる。


「あ、あのときのおねえちゃんたち!」


 ぽかり、口を開けて結界魔導器を見上げていた私に、突然腰辺りに小さな衝撃が加わる。まあ、お元気でしたか?なんて言うエステルの声が背中で聞こえたが、私に分かるのは腰にいるのは人で、それが子供だと言うことだけだ。
 ゆったりと振り向くと、そこにはたしかに見覚えのある男の子が、人懐っこい笑顔を浮かべていた。


「ああポリー久しぶり、元気してた?お母さんと一緒にノールから散歩……ってわけじゃないよね?お父さんはどうしたの?」
「それがティグルの……夫の行方は三日前から分からなくて。貴族になるため、あんなに頑張ろうとしていたのに……」


 ノールで別れたきりのポリー。彼はちゃんと家に帰れたらしい。
 私の質問には彼の母親が答えた。夫が行方不明なせいか、彼女はすこしやつれている。


「街が完成したら、せっかく貴族になれるのに……」
「え、それちょっとおかしいです」


 貴族の位は帝国に対する功績を挙げ、皇帝の信認を得られた者だけに与えられる。だが今皇帝の座には誰も就いていない。貴族になど余程の特例でもない限り、なれるわけなどないのだ。


「で、ですが、キュモール様は約束して下さいました!貴族として迎えると!」
「それは………なんていうか、ご愁傷様」


 たとえキュモールがこの街の現執行官代行だとしても、そんな特権与えられているわけもない。以前見たあの横行な素振りから考えて、貴族階級を餌に労働者を釣っていると思ったほうがまだ自然だ。
 今までの努力が泡となって消えていくことにポリーの母親は泣き崩れた。そんな母親を心配そうに見守るポリー。
 エステルの病気が見逃すはずがない。


「あの、ユーリ……」
「ギルドで引き受けられないかってんだろ」
「報酬は私が後で一緒に払いますから」


 騎士団は民衆を守るために在るのに、と憤るエステルとは逆に、首領のカロルは及び腰だ。騎士団に睨まれ、作ったばかりのギルドを潰されるのが心配らしい。それでも断らないのだから偉いものだ。


「ナマエもそれでいい?」
「いいも何も、私はただの同行者だし。カロルたちが騎士団に正面から喧嘩売るか、目的地に着くまでは一緒させてもらうよ」
「同行する以上は凜々の明星のやり方に従ってもらうぜ」
「勿論。無理だと思ったら一目散に逃げるわ」


 一人旅は寂しいし、めんどくさいし、疲れるし。出来ることならすこしでも気心の知れた皆と旅がしたいけど。
 そう茶化して続ければ、ユーリは呆れたように乾いた笑いをした。

 とりあえず、見るからに怪しい一つの昇降機にわたし達は目をつけた。関係者以外立ち入り禁止で、わざわざご丁寧に見張りまでつけては、何か隠していますと自分で行っているようなものだ。
 とは言っても見張りがいては、いくら怪しくても近づけない。ジュディスは強行突破したがっているが、カロルが必死にそれを止める。


「とにかく見張りを連れ出せればいいんだよ!ほら、あの……色仕掛けとかで!」


 慌てたのか、カロルの口から出たのは大胆な作戦だった。思わずユーリと目があったが、多分心内は同じだろう。


「ま、ジュディが妥当だよな」
「そうね、私が妥当よね」
「エステルにしてもらうわけにはいかないしねえ」


 仮にもお姫様に色仕掛けをしてくれなど、口が避けてもいえない。そうじゃなくてもジュディスが適任なのには変わりないが。彼女も存外やる気で、その為のドレスを買いに店に向かう。今の服でも十分だろうに、彼女はいったいどれほど過激な服が欲しいのか。
 次々と服を漁っては駄目出しばかりしていくジュディスには、店の主もお手挙げ状態だ。


「あのさ、そんなにこだわるなら、私が作ってあげようか?まあ材料があれば、だけど」


 まさかの展開にユーリとカロルの男性陣は完全に疲れきっている。そんな状況を打破する為の言葉だったのだが、ジュディスは驚いたのかゆっくりと動きをとめた。


「服が作れるの?」
「一応。自分が身に付けるものは全部自分で作ったやつだし」


 品定めするかのように私の頭から足の先まで見つめたジュディスは、納得が行ったのか、満足そうに頷いた。
 じゃあお願いするわ。
 彼女の望む形を聞き、材料をありったけかき集めると、私はさっさと宿屋の一室に引きこもることに決めた。自分が言い出したことだが、時間はあまりない。一晩で仕上げなければならないのだ、それもジュディスが満足するくらいに。

 布を片手に悩み出した私を、部屋の入り口からカロルとラピードが物珍しげに見つめていた。

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