「もう何も追ってこない」というジュディスの勘を信じて休憩となったのは、ダングレストから随分と離れてのことだった。とはいっても目先の目的地であるヘリオードまではまだ距離がある。今夜は不本意ながら野宿に決定だ。

 野営準備の作業を進めながら、気づけば話題はダングレストを出るときにユーリが言っていた"ギルド"に変わっていった。


「ギルドを作って、何をするの?あなたたち」
「僕はギルドを大きくしたいな。それでドンの跡を次いで、ダングレストを守るんだ。それが街を守り続けるドンへの恩返しになると思うんだ」
「立派な夢ですね」
「俺はまぁ、首領(ボス)について行くぜ」


 カロルとユーリの間で交わされた冗談のような口約束。まさか本当にギルドを作るつもりだとは微塵も思わなかった。
 二人で出発するギルドの首領はカロルで決まりらしいが、途端その首領があたふたしはじめた。


「え?首領?僕が……?」
「ああ、おまえが言いだしっぺなんだから」
「ひゅーひゅー、若い首領ってかっこいいねぇ!」


 煽てるように言えば、軽くユーリに頭をしばかれた。当事者であるカロルは気にするどころか、むしろ喜んでいるので、この処遇は激しく気に食わない。


「ふふっ……なんだかギルドって楽しそうね」
「ジュディスもギルドに入ってはどうです?」
「あら、いいのかしら。御一緒させてもらっても」
「ギルドは掟を守ることが一番大事なんだ。その掟を破ると厳しい処罰を受ける。例えそれが友達でも、兄弟でも。それがギルドの誇りなんだ。だから掟に誓いを立てずに加入は出来ないんだよ」


 彼らのギルドが気になったのか、ジュディスは至極楽しげな笑顔を浮かべている。
 ーーお互いに助け合う、ギルドのことを考えて行動する、人として正しい行動をする。ひとりはギルドのために、ギルドはひとりのために。義をもってことを成せ、不義には罰を。そして掟に反しない限りは個々の意思を尊重する。
 ギルドにしては珍しい、ひとの為のギルドの掟。それを聞いてジュディスは満足に笑みを深めた。


「ええ、気に入ったわ。ひとりはギルドのため……いいわね。掟を守る誓いを立てるわ。私と、あなたたちのために」


 まるで青春物語のようにトントン拍子で進んでいく展開に「かっこいいなぁ」と思わずそんな呟きが漏れる。隣のエステルもそうだったのか、短い肯定の言葉が聞こえた。


「ナマエもたしかギルドに所属してるんですよね?ああやって掟に誓いを立てたんじゃないんですか?」
「私?いや、全然。成り行きで入ったもんだから、掟とか後で聞いて、なんじゃそりゃー!みたいな感じ」
「そ、そうなんですか……すごいですね」


 けどそれに感謝はしても、恨んだことは一度もない。何もかもに絶望していた私の手を取って『今日からは俺たち"魂の鉄槌(スミス・ザ・ソウル)"がナマエの家族だ』と言葉をくれたあの手は、間違いなく私の宝物になっている。
 過去に浸ってしまっていた私をエステルが心配そうに見つめる。「ちょっと考え事」それだけの返事で、当分の見張りはラピードに任せて、私は先に休ませてもらうことにした。

 お父さん、私頑張るからーー。



* * *



 夜が明け、今後の方針を話し出した皆の話を、すこし離れたところで静かに聞いていた。
 せっかくギルドを立ち上げたのだから仕事がしたいと逸る気持ちを抑えきれないカロルに、あの自身を襲った魔物を探すというエステル。自分を狙う理由が知りたい、尤もな理由だ。
 でも情報がゼロじゃ動きようがない。そんな頭を悩ませる状況を打開するような、ジュディスが重大な情報をくれた。


「化け物ではなくて、あの子はフェロー。前に友達と旅をした時に見たの。友達が彼の名前を知っていたわ」
「一緒に旅してた人って?その人、なんでそんなの知ってたの?」


 カロルの質問には答えてはくれなかったが、続けざまに出されたエステルからの質問には答えてくれた。その"フェロー"を何処で見たのか。デズエール大陸にあるコゴール砂漠、そこで見たというジュディスに、私は思わず目を見開く。


「でも、そこへエステル一人で行く気なの?」
「え?あの……」
「やれやれ。こりゃ護衛役続けとかねぇとマジで一人で行っちまいそうだ。なあ、これギルドの初仕事にしようぜ」
「そっか!ここでエステル一人を行かせたらギルドの掟に反するよね」


 持ち合わせがないということで、報酬は後払い。とんとん拍子で決まっていく彼らの会話は見ていて気持ちが良いくらいだ。決して飽きることがない。


「よーし!じゃあ勇気凛々胸いっぱい団出発!」
「ちょっ、それなんです?もっと名乗りを上げるときに、ずばっと言いやすくないと!」


 一晩かけて考えられたらしいギルドの名前は、何故かカロルよりも熱くなっているエステルによって即刻却下された。当事者よりも真剣に考えていそうなエステルによって提案された新たな名前は"凜々の明星(ブレイブヴェスペリア)"。夜空で最も強い光を放つ一番星だ。


「さて、名前も決まったしそろそろ出発したいんだが、ナマエはどうしてそんな複雑そうな顔してるんだ?」
「ん……これからのことを考えててさ」


 リタに用事じゃなかったの?とカロルは首を傾げるが、さすがに情報が少な過ぎて後を追うに追えない。専門家でもない私には難易度が高すぎる。


「それで取り敢えずの目的地がノードポリカだったんだよね」


 その言葉に私の言葉を理解したカロルとジュディスは表情を変えた。二人とも、嬉しそうな方向へ。
 純粋に喜ぶカロルはともかく、ジュディスはなんとなく私を見て楽しんでいる気がする。
 未だ状況が掴めない残り二人には、もう少しわかり易く現状を伝える。


「つまり、行き先が一緒なのよね。また」

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