高台にある魔導器(ブラスティア)の元へ到着し、邪魔な騎士を蹴り倒し、リタが魔導器を止めてくれたまではよかった。
 これにて一件落着、はやくミョルゾに行こうという空気の中、更に別方向から光弾が飛んできたのだ。誰よりも早くそれに気づいたユーリが剣で防ごうとしたが、そう上手くいくわけもなく、バランスを崩し崖から落ちそうになる。


「ユーリッ!」


 すんでのところでレイヴンが腕を掴んだが、彼一人では体格の良いユーリを支えきれない。


「少年、こっち来て、手伝うのよ」
「あ、う、うん……!ナマエも手伝って!」


 カロルに声をかけられてはっとする。
 私とユーリの距離はそう離れていなかった。なのにあの瞬間、私の身体は落ちていくユーリを見ているだけだった。もしレイヴンが間に合わなかったら?おそろしい想像が頭を駆け巡り、怖くなって頭を振った。


「油断したぜ。もう一台あったとはな」
「まさか……ユーリ、私に力を使わせないために?!」
「これくらいの傷、日常茶飯事だっての」


 そうはいうが、ユーリの体は服の上からでもわかるくらいボロボロだ。距離があるとはいえ兵装魔導器(ホブローブラスティア)の攻撃を一人で受けたのだ、無事なわけがない。

 こうなってしまっては一刻も早く向こうの魔導器も止めなければならないのだが、暗号鍵を知る唯一の技士が一瞬の隙にパティを突き飛ばして逃げてしまった。


「リタ姐、すまないのじゃ……逃がしてしまったのじゃ……」
「……いいわ、ここはあたしがなんとかするから」
「え、でも簡単じゃないって……」
「騎士団さえいなくなりゃ、そんなに慌てる必要もないでしょ。それにあたしを誰だと思ってんの?天才魔導士リタ・モルディオ様よ?魔導器相手なら死ぬ気でやるわよ」


 なんとも頼もしい言葉を吐いたリタは、もう一つの魔導器の元へ行く前に、目の前から魔導器になにかやりはじめた。
 どうやら簡単には使えないように細工をしているらしいが、私の頭では何をしているかわからない。


「命を賭けるものがある若人は輝いてるわね〜」


 邪魔にならないようにすこし離れたところからそれを眺めていたら、後ろのユーリとレイヴンの会話がうっすら聞こえてくる。
 どうせまたくだらないことでも話しているのだろうと思い耳を傾けたが、どうやらそうではなかったようだ。いつになく真面目な声音で、心臓がヒヤリとする。


「一度死にかけた身としてはら死ぬ気でってのはシャレにならねえか」
「ん?死にかけたって?」
「人魔戦争の時、死にかけたって言ってたろ?」
「ああ、その話したっけか。……まあ、死ぬ気でがんばるのは生きてる奴の特権的だわな。死人にゃ信念も覚悟も……」


 リタの作業が終わったので、二人の会話もそこで打ち切られた。
 死ぬ気でがんばるのは生きてる奴の特権だとレイヴンは言っていた。じゃあ、命を懸けられるだけのものを持たない私は、まるでもう死んでるみたいじゃないかーー。


「ナマエ、行くぞ」
「……あ、うん。今行く」


 ユーリの背中を追って二三足を進めたが、そこで歩みは止まってしまう。


「どうかしたのか?無理そうなら船に戻るか、ここらで待っとけよ」
「ううん、まだ大丈夫。ただ……ユーリは、私のこと……」
「ナマエ?」
「……やっぱりなんでもない。次、行こうか」


 ユーリは不思議そうに首をかしげたが、深くは聞いてこなかった。ただ、すれ違い様に「あんま無茶すんなよ」と肩を叩かれた。
 ーー私、生きてるように見える?なんて台詞、言わなくてよかった。

 もう一つの兵装魔導器は、森のすこし奥まったところにあるらしい。こちらからはあまり姿が見えないのに、向こうからは勝手が違うようだ。
 次々と打ち出される光弾を、自然を盾に進んでいるが、当たらなくてもエアルの消費は避けられない。ヘルメス式ではないとはいえ、次第に胸が締め付けられていく。


「全員、大丈夫か?」
「ナマエもだけど、今度はおっさんが辛そうよ」
「私は平気だよ。まだ行けるから」
「おっさん、ここでリタイアするか?後は俺たちで行くから」


 岩肌に背中を預け、心臓のあたりをぎゅっと握りしめるレイヴンを、誰もが心配の眼差しで見つめる。


「ここで置いてかれたら、俺様いくとこなくなっちまう」
「ユーリだって本気で置いてくわけないじゃん。それに行くとこないって、"天を射る矢(アルトスク)"があるじゃない」
「んー?まああれはねえ、なんというか……ちょっとそういうのと違うのよ」
「そうなの?」


 とりあえずレイヴンも、動けないわけではないようだ。ならばここで休むより、エアルの充填が終わるよりも早く、あの魔導器の元へ辿り着いたほうがいいだろう。
 幸い、魔導器との距離はもうそれほどでもない。これまでの間隔を考えても、さっさと走り抜けてしまえば無事切り抜けられるだろう。

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