「待って。先に話しておきたいことがあるんだ」


 クリティア族の街ミョルゾ。その情報を求めて、私たちはアスピオへとやってきた。
 バウルで空を飛んできたこともあり、通常よりはやくに着くことが出来たが、それでも砂漠からの大移動だ。既に時間は遅い。
 人探しは明日にしてリタの家で休もうという声があがっていたところで、カロルが皆を引き止めた。


「……私の事ね」


 ジュディスにカロルは大きく頷く。
 彼女は凜々の明星というギルドに所属している。その掟に反したことをしたならば、当然厳しい処罰が待っているはずだ。

 エステルは心配そうな声を漏らしていたが、ギルドというものの在り方を誰よりも理解しているレイヴンに止められればそれ以上なにも言えない。


「僕ずっと考えてた。ギルドとしてどうすべきなんだろうって。で、思ったんだ。やっぱりギルドとしてやっていくためにも決めなきゃいけないって」
「どうするか決めたんだな?」
「言ったよね。ギルドは掟を守ることが一番大事。掟を破ると厳しい処罰を受ける。例えそれが友達でも、兄弟でも。それがギルドの誇りなんだって」
「ええ」


 首領であるカロルの下した決断を、誰もが息を飲んで待ちかねていた。


「だから……皆で罰を受けよう」


 だからこそ、続いて飛び出た言葉には脳がついていかなかった。
 ジュディスですらカロルの真意が分からず、きょとんとした目で彼を見返した。


「僕、ジュディスが一人で世界のためにがんばってるの知らなかった。知らなかったからって仲間を手伝ってあげなかったのは事実でしょ。だから僕も罰を受けなきゃ」


 皆で罰を受ける。
 凜々の明星は現状三人のギルドだ。こじつけにも聞こえるが、彼らのギルドの理念としては間違っていなくもない。
 そして若き首領は、残った一人にも目を向ける。


「ユーリも自分の道だからって秘密にしてることがあった。それって仲間のためにならないでしょ」
「ま、まあな……」
「だから罰受けないとね」


 ギルドの首領として考えたうえでの言葉と笑顔を向けるカロルに、ユーリもたじたじだ。


「掟は大事だよ。でも正しいことをしてるのに掟に反してるからって罰を与えるべきなのか、ホント言うとまだわかんない。なら皆で罰を受けてやり直そうって思ったんだ。これじゃダメ?」
「俺、また秘密で何かするかもしれないぜ」
「信頼してもらえなくてそうなっちゃうんならしょうがないよ。それは僕が悪いんだ」
「またギルドの必要としている魔導器を破壊するかもしれないわよ?ギルドのために、という掟に反するわ」
「でもそれは世界のためだもん。それに掟を守るためにギルドがあるわけじゃないもん。許容範囲じゃないかな」


 彼の言葉を、人によっては愚かなことだと切り捨てるだろう。それでも従来の型に囚われることなく、自分の考えで決断しメンバーを導いたカロルはとても立派だ。


「じゃあ改めて、"凜々の明星"出発だね!」


 全員で罰を受けるのはいいとして、肝心の罰をどうするかだが、せっかくなので凜々の明星の皆には休まずミョルゾについての情報を集めてもらうことになった。

 残った皆は欠伸をするリタの後に続いて、彼女の家に行った。
 私はというと、まだまだ元気いっぱいなパティと一緒にお宝の手がかりを求めて街を散策している。
 自分一人では気づかなくても、アイフリードの孫であるパティの視点で見れば違った発見があるかもしれないからだ。


「うーむ。本は多いが、アイフリードの話はどこにもないのじゃ」
「ここは魔導器とかの本ばっかりだからねえ。麗しの星について知ってそうな人もいないし……」
「しょうがないのじゃ。もう少しユーリたちと旅をして手がかりを探すのじゃ」
「それが今のところ一番だね」


 結果としては空振りだったのだが、アスピオに手がかりはないとわかっただけ良しとでも思っておこう。
 すこし落ち込んでいる風にも見えるパティの頭を撫でながら、リタの小屋へ二人で向かっていたとき、一人の男が近づいてきた。
 見るからにアスピオの人間ではない。どちらかというとギルドの人間の匂いがする男に、咄嗟にパティを背に庇う。


「今、アイフリードって言ったか?」
「いきなりなんの用よ」
「おい、そっちの。あんた最近、噂のアイフリードの孫なのか?」
「なんの用かって聞いてるの!用があるなら私に言えばいいし、ないならどっか行ってくれる?」


 不躾な態度の男は、私を押しのけてまでパティと顔を合わせた。いくら抗議の声を上げても、男の力で振り払われてはパティを助けることが難しい。


「否定も肯定もしないってことはそうなんだな。なるほどね、あんたがギルドの面汚しの孫か…………なんだ、普通のガキだな」
「…………」
「なんとか言ったらどうだ?じいさんを弁護する言葉とかはないのか?そうか、庇えるような事実でもないわな、あれだけのことやってれば」


 何も言わず俯いて耐えるパティに次々と言葉を投げかける男。何も知らないくせに、噂だけで全てを決めつけて喚く男に私はもう我慢が出来なかった。
 気づけば振り上げた手を男の顔に向けて振り下ろしていたのだ。


「ごちゃごちゃうるさいっ!なにも知らないあんたにパティのことそんな風に言う権利なんてないんだから!」
「痛っ!おまえこそなんなんだ……こんな奴庇うなんて!おまえこそなにを根拠に言ってるんだか」
「……ナマエ姐、うちのことはいいのじゃ」


 パティがぽつりと零した台詞に男が得意気に口角を釣り上げたのが切欠になったのかはわからない。
 ただその瞬間、私の頭は後先考えずに言葉を発したのは確かだ。


「根拠ならあるわよ!あのブラックホープ号に乗ってたんだから!」
「ナマエ、」


 私を正気に戻してくれたのは、叫んで息も切れ切れな私の肩に置かれたユーリの手だった。
 彼の後ろにはジュディスとカロルもいる。二人とも驚いた顔で私を見ている。それが私の剣幕にか、私の叫んだ内容にかは知りたくない。

 ユーリとは反対側にはリタがいた。大方来るのが遅い私たちを心配して見に来てくれたのだろう。
 くっと眉間に皺をよせると、まだごちゃごちゃと言葉を紡ぐ男になにかを言って追い払っていた。

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