フレンたちのおかげで街の人々は解放され、清々しい気分でマンタイクから旅立つことが出来る。諸悪の根源であるキュモールは行方不明だが、あの男がいつまでも逃げきれるとは思えない。直に捕まるだろう。今回の功労者であるフレンと会うことはなかったけれど、特に用もないのでかまわないだろう。



* * *



「カドスが封鎖されてるって?それも騎士団に?」


 ノードポリカに戻る為、残り少なくなった砂漠地帯を歩いていくと、反対側からやってきた商人がそう言ったのだ。
 山を越えるルート全てが封鎖されていると。
 なんでもノードポリカは危険だとかなんとか言って追い返されたらしい。商人は幸福の市場の者で免状を持っているにも関わらず、だ。


「まさか例の人魔戦争の件で、ベリウスを捕まえるため……?」
「それでもノードポリカへ行かないと船に乗れないのじゃ。船に乗らないと麗しの星と記憶を探す旅が続けられないのじゃ」


 商人の男は仕方なくマンタイクへ引き返すことにしたが、ここにいる人間たちが大人しくそれを選ぶとは思えない。


「なんでどこに行っても騎士団に会わなきゃならないのよ……ありえないわ……」
「同感。俺様、あんま騎士団と関わりあいたくないのよねえ」
「でも新月の夜も近づいてるし、今を逃したらいつベリウスに会えるかわかんないかもだよ」


 結局、いくら文句を言っても進むしか選択肢はないのだ。
 すこし洞窟に入っただけで、大勢の騎士と魔物の姿が見える。一応フードは被っているが、あれほどの人数がいれば顔が見られない保証はない。

 騎士団が危険性の高い魔物まで連れてくるような作線だ。もしかすると本当に人魔戦争の話が噛んでいるのだろうか。

 この場をどう切り抜けるか頭を悩ませていると、パティとレイヴンがごそごそと密談をはじめた。いったい何を言ったのか、レイヴンにしては珍しくやる気を出して弓を構えた。


「こういうのはどうよ?」


 放った矢は例の爆発するもので、驚いた魔物は暴れ出す。こうなるといくら飼い慣らしたつもりでも騎士の言う事など聞きはしない。

 その横を走り抜けると同時に、誰かが煙幕までばらまいていたから、これでしばらくは平気だろう。
 だからといって油断は禁物だ。ここのエアルクレーネを調査したかったリタには残念だが、あまり悠長にもしていられない。手早く調査をはじめたリタの隣で、ユーリには焦りや苛立ちの色が見えてきた。友人であるフレンに対して色々と思うところがあるのだろうか。


「今は完全におさまってる……。一時はあんなに溢れてたのに。あれでエアルを制御したってこと?なんで魔物にそんなことが……」
「そのエアルクレーネはもう安全なんです?」
「ええ、そのはず。ナマエ、なにか体調に変化とかある?」


 リタの問いかけに首を横に振ると、彼女はまた考え出した。
 前回通ったときになぜいきなりエアルが噴出したのか。自然現象なら周囲に影響があるはずだが、ここにそういった形成は見られない。何か他に原因があるはずなのだ。

 遠くから聞こえてくる鉄のぶつかる音に、それ以上留まることは無理だったが、リタは歩きながら考えをまとめていく。


「だとすると、何かがエアルクレーネに干渉して、エアルを大量放出する……?でも、いったい何が……エアルに干渉するなんて、術式か、魔導器くらいしか……」


 ここには騎士の他にも魔物が住み着いているのだから、思案に暮れてばかりでは危ないという言葉を吐くよりも早く、後ろから騎士の叫び声が飛んできた。
 ひどく運のないことに、前方にはユーリと仲の良いシュヴァーン隊の騎士がおり、今の叫び声で彼らもこちらに気づいてしまった。


「む、おまえは、ユーリ・ローウェル!」
「よう、久しぶりだな」
「そ、それにエステリーゼ様!」


 前にも後ろにも騎士。はっきりいって最悪の状況だ。
 抜けるとすれば人数も少なく、目的地方面である前方だが、腐っても騎士が三人いるのだ。簡単に抜かせてくれるとは思えない。


「仕方ないか……」


 覚悟を決めて腰のスティレットを引き抜く動作に入った私、それを引き止めるように肩に手が置かれた。


「レイヴン……?」
「全員気を付け!」


 一瞬何が起こったのか分からなかった。
 二三前に出たレイヴンがそう声を張り上げると、シュヴァーン隊の三人は何かに取り憑かれたように綺麗に礼をとったのだ。
 目の前の光景に呆気にとられているうちに、私を置いて仲間たちはどんどん駆け抜けていく。


「ほら、ナマエちゃんも行くわよ」
「あ、」


 現状を作り出したレイヴンはさして気にした様子もなく、私の腕を引いて走り出す。いったいどういうカラクリがあるのか。当の三人も訳が分らないという風に顔を見合わせている。

 ふと、風に煽られて私のフードがふわりと舞い上がった。暗い洞窟の中で寸の間顕になった私の目と、一番年長の騎士の視線が一瞬重なる。
 ミョウジ隊長、彼の口がそう動いたように見えた気がして、足の動きを一層早めた。

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