Bloody Mary
episode.02




Pussy cat, Pussy cat,
where have you been?
I've been to London to see the Queen.




今日のお仕事は、いつもよりもちょっとお淑やかに。

相変わらず制服のように身につけているチャイナドレスはいつもよりスリットが浅めだし、
隠し持っている獲物も
最低限のお気に入りのそれらだけ。



東城会本部の駐車場に、お行儀よく駐車して、
先に下りた真島の元へと行くと、
下ろした場所から動きもせず、冴島と談笑していた。

一歩後ろで会釈をすると、透子の存在を認めた冴島が片手を上げて挨拶をする。



「紅月か、久しぶりやな。」


冴島の低い声に合わせて、
その背後に控えていた馬場も、頭を下げた。

それに応えた透子が膝を折って挨拶を返せば、真島が嗤った。


「余所に対してはえらくお上品やないか。」


真島の言葉に、その太めに引いた眉を引き上げることで、言葉なき反論をする。

その様子に冴島が、相変わらずやな、と笑った。


「兄貴、そろそろ。」


このメンバーで揃うと常にタイムキーパーのような役割になる馬場が口を挟むと、冴島が一度頷いて
4人は本部の大きな正面玄関をくぐった。



こういう場に、透子が同伴することは初めてに近い。
多少の送迎程度なら何度か頼まれたことはあったものの、
本来ならば、南がこういった役割だったはず。

そもそも、透子は東城会どころか真島組にも属していない認識である。


それを敢えてこうして名指しで連れてくるあたり、
何か別の理由があるのだろうと思っていたから、なかなかに気が抜けなかった。



幹部会も終わりに差し掛かり、
ぞろぞろと名だたる幹部たちが部屋を後にする。

最後まで部屋に残っていたのは真島と、冴島と、会長である、堂島大吾だった。



幹部3人に、部外者が1人というなんとも面妖な顔ぶれではあったが
透子は顔色一つ変えずに真島の後ろに控えた。


人払いをし、重たい扉を閉めさせてから
大吾が口を開き、ようやく、透子を呼び寄せた理由を訥々と語った。


「というわけで、紅月さんをお借りしたい。」


「詰まる所、美人局をせよ、という理解で宜しいでしょうか?」


「身も蓋もない言い方やんな。」


あまりにも率直な透子の物言いに真島が呆れた様子を隠さない。


要は、最近、大吾の身辺で不穏な動きがあるという。

どうやら裏切り者は近い場所にいるらしいが、なかなか尻尾を出さない。
それを炙りだすために一席設けるから、調査してほしいということだった。


「真島さんの懐刀である貴女の、その素性を知るのは真島君の一部を除けば今のところ、ここにいる人間くらいのものだ。
聞く限りではありますが、貴女の能力は極めて高いものと評価していますし、
どうやら透子さんは“そう云う輩”を嗅ぎ分けるのが巧いと思っています。
その上でのお願いです。どうでしょうか。」


大吾の言葉を聞いて、透子はチラリと真島を見る。
真島の表情は、好きにせえや、と言っているように思えた。



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