Belladonna



秋山が透子の赤く腫れた頬に手のひらを添えると、
彼女は少しだけ身じろいてそれに応じた。


こんなに腫れているほど殴られたら、
相当に痛みを伴ったろうに、
きっと今回も彼女はうめき声一つ出さずに耐え忍んだのだろう。


そう、透子がこんな風にして頬を腫らしたりする事は決して珍しいことではない。

けれど、
大概は丁度スカートに隠れる太ももの辺りだとか、
紺色のソックスに覆われた脛だとか、
白いシャツの下の二の腕だとか。

そういった、普通にしていたら見えないところに
傷を負って秋山の元へ訪れるのが常だったのだが。



「今回はまあ、随分、だね。」


きっと口の中もいくらか切れているのだろう。
苦虫を噛み潰したような表情のままの透子にため息をついた。


彼女が、実はそれなりに、
喧嘩慣れしていることを

秋山は知っている。


そして、そんな彼女が大人しくやられて
傷を負ってここに来る理由も

秋山は、充分に理解している。



「口の中も、切れているんだろう?先に、うがいでもするかい?」



そういって保健室に備え付けられた水場を顎でしゃくるが、透子は小さく首を振って、それを拒否した。



「切れているかどうか、確かめて」



添えられた手に自らのそれを重ねて、
首を傾げて見上げれば、

秋山がもう一度ため息を漏らした。

困ったような、
しかし、満更でもなさそうなため息を。



彼女の首筋を撫でながら、唇を重ねて
躊躇なく、その口内へ舌をねじ込んで堪能する。



「血の味。」


「やっぱり、口の中が、切れているのね」



既に把握済みの自身について、
あたかも今、気がついたかのように言ってのける透子に秋山は笑った。



ぺろりと最後に唇を一度舐めてから秋山が身を起こすと、
透子が自然な動作で、シャツのボタンを外していく。



露わになる、白い肌。

赤色と、紫色の内出血が

まるで白いキャンパスに咲いた彼岸花のようにも思える少女と大人の境目の、肌。



色気も素っ気もない、子供っぽい綿の下着と
十分に発育した大人の体がアンバランスで

余計に秋山の情欲を煽る。



けれど、決して秋山からは手を出したりしない。



「せんせ、手当を。とてもとても、痛くて」



潤んで、瞳孔の開いたその目が、
秋山から少しも目をそらさない。



「とてつもなく、苦しいのよ」



ぱさり、と。

スカートがリノリウムの床に落ちる。



その音が合図かのように秋山は


仕方がないな、と呟いて透子に触れた。






【 Belladonna 】




恋の痛みも、歓びも、


想いの全てを あなたに







2016/04/30



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