distance



放課後の時間の潰し方はある程度決まっていた。

その過ごし方の一つで、幼馴染の透子が馬場の部屋に遊びに来ることは特に自然なことだった。

馬場が部活を始めてから、頻度は減ったものの、
一緒にいるときの過ごし方は小学生の時から変わらない。




ローテーブルにいつも通り置かれるのは
帰宅途中のコンビニで買ってきたスナック菓子とペットボトル。

新作のポテトチップスは毎回チェックするものの、結局いつもの味に落ち着く。
飲み物の好みは二人ともいつも変わらない。



並んでテレビに向かってあぐらをかき、コントローラーを握る。

時折どうでもいい会話を挟みながら、
昔からハードが変わってもやり続けているプレイヤー対戦式のレースゲームをするのが二人の日常。




「よっしゃ、私の勝ちー!3連勝!」


コントローラーを手放して喜ぶ透子の横で、馬場は特に悔しがる素振りもなく、ポテトチップスを手に取った。


「ぷはぁっ、勝利を納めたあとの一杯は格別ね。」


満足そうに、ペットボトルを傾けるのを頬杖をつきながら馬場は見つめる。

もはやこの関係は性別を超えていて、まるで男友達同士のような関係。

だからこそ、いつのまにか馬場の中で芽吹いた恋心は非常に厄介で邪魔な存在。
できればずっと気付きたくなかった気持ちを抱え続けて
短くない時間が経っている。



「そういえばさ、彼女とかつくんないの?」

「部活とお前のお守りで彼女なんか作ってる暇ねえよ。」


唐突な会話もいつものことだが、できれば避けたかった話題。

思春期の女子の中では尽きない話題の一つなのはわかるが、
それを自分に突きつけないで欲しかった。


話題を変えたくて、コントローラーを弄って
テレビにうつる操作キャラクターの選択画面をウロウロとするが
透子の興味が移ることはなさそうで小さくため息をついた。


「整った顔してるしモテそうじゃんか。今までもずーっと彼女つくってないけど、なんで?」

「俺なんかモテないよ。お前の方こそどうなんだよ」


正直言って、透子の恋愛事情など心底どうでもいい。
否、あまり聞きたくはなかった。



しかし、女がこういう話題を出してくるときは決まって
何か自分が聞いてほしいことがあるときだと
今までの経験からなんとなくわかっていたから。

そうなると、一度聞いてやらない限り引き下がってはくれないだろう。


「んー、好きな人は、いる…のかな?」


半分予想はしていたが、首をかしげながら頬を綻ばせて言う透子の表情を見て少し落ち込む。


…でもまあいい。


惚れた女が自分の知らないうちに誰かのものになっていたら、それこそ一大事。
この後に続く話次第では、事前にその芽を摘んでしまえることも可能かもしれない。


気を取り直して、馬場もコントローラーを放った。


「誰?言ってみ。」


透子にしては珍しく、
この手の話題を自分から振ってきたくらいだ。
ある程度、話したいことがあるのだろう。


そう予測して言ってみると、透子は少しだけ勿体振るように、
伸ばしたセーターの袖で口元を隠して思い人を想像するかのように目線をあげる。


今彼女の頭の中に浮かんでいるのは誰なのだろうか。



同じクラスでお調子者の品田?

良い噂はあまり聞かないがイケメンと高評価な谷村?

それとも、生徒会長で後輩からも人気な大吾先輩?

あるいは、まさか真島先輩だろうか?





悶々と次から次へと透子と接点のありそうな人物を頭に浮かべてみる。



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