mythomania



初めて会ったのは、中学生の時だった。


妙に落ち着いた様子の彼は
まだ幼さの残る同級生たちに混じることがなく、
良い意味でも、悪い意味でも、目立っていた。

いつのまにか彼の存在は‘特別’になっていて
自然と、周りも彼自身も
必要最低限の交流しか持たなくなっていた。


そんな折、
飼育当番で彼と一緒に作業したことがあった。

ウサギ小屋の掃除をし、ゴミ捨てをして
戻ってきた時に見た彼は
ウサギの柔らかい背中を撫でながら
人間相手には見せない人懐こそうな笑顔を浮かべていたのが印象的だった。


「動物、すきなんだ」


問いかけると、少しはにかんだような顔で頷く彼は年相応の少年で。

現金な私はアウトローな雰囲気を持つ彼のギャップに魅力を感じると同時に惹かれ始めたのだった。




卒業式の日に、式には出ないで屋上で寝転ぶ彼に進路を聞くと予想を斜め上にいく答えが返ってきた。


「俺は、高校にはいかない。」


「ふぅん。どうするの」


「自由に、なるんだ」


彼の言っている意味は、
この時の私には理解できなかったけれど

彼の顔は、見たこともないくらい晴れやかで
爽やかな様子はとても印象的だった。


好きだ、とはとても言えなかったから
代わりに、キスをしてみたいと強請った。



唇を触れ合わすだけの優しいファーストキス。
甘酸っぱい思い出とは、よく言ったものだ。

不思議と、気持ちが舞い上がることもなく、
それはストンと、私の中で消化されてしまった。






そこで、暗転。
そのまま、私の初恋は幕を閉じる。


卒業しても、なんやかやで会えたり、
連絡を取ったりするものだと思っていた。



けれども、蓋を開けてみれば

3年間も一緒にいたというのに、
私は彼の住所も電話番号も、なにも知らなかった。





城戸武、という名前と

彼の唇の柔らかい感触以外は、



なにも。



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