Schneewittchen



白い壁と床に囲まれた白い箱のような部屋には、
ゆったりとした大きさの、白いベッドが一つ。

生命維持装置を繋がれた透子は
今日も静かな呼吸をひたすらに繰り返す。



白檀の香りに包まれたこの部屋は

寒くも暑くもない室温に保たれていて

唯一、白薔薇のドライフラワーが飾られている。



そんな妙な趣のせいか、
もしかしたら死後に目指さねばならないという極楽浄土とやらは、こんな風なところなのかもしれないという印象を抱く。



透子がこうなった原因は
峯にとって、あまり興味のないことだったので
誰かに聞かされた気がするけれど忘れてしまった。


但し、彼女を生かす手段はこれしかないのだという結果には大変興味を持ったし、それは峯の念願が叶う事と同義であった。



透子が自由に立ち振る舞っていられた頃は
それはそれは、心配の多い日々で。


快活で、明朗で、気楽で、自由な透子は峯以外にも多くの男を魅了していた気がする。

峯自身はしっかりと自覚するほどの偏愛ぶりであったが
彼女が自分に向けた愛情はそれと等しくはないと、決めつけていた。



だから、こう、なってしまった今。


とてつもなく、安心しているのだ。




その黒檀の様に黒く揺蕩う髪も、

抜けるように白い肌も、

かつて峯に愛を囁いていた赤い唇も、


頭の先から爪先まで、透子のすべてを独占できたことに興奮を禁じえない。




透子のことは周囲には行方不明ということにしておいた。

ある日ふらりといなくなってしまったのだと。


偶に、透子を知っている誰かに透子の行方や、
その後の事について、聞かれることがあった。

そんな時、峯は黙って首を振ることにしている。

彼女の生き死にまでもを掌におさめられた幸せを
その無表情な顔面の下にそっと忍ばせているのだ。





血の気の少ない、透子の頬に優しく触れた。

唇にそっとキスをして、


「これでも、俺なりに、君を心から愛している」


透子にすら見せたことのない
美しく、安らかな表情で

自らを 嗤った。





【 Schneewittchen 】


わたしは、あなたが世界じゅうのなにものよりも

かわいいのです。







2016/04/06



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