Valentine's day



2月14日。
言わずと知れた、恋人たちの日。


今日は映画でもゆっくり見て、
夜はちょっといいところでディナーでも。




なんていう約束をしていた筈。
昨日までは。


深夜の日付の変わるか変わらないかという頃。
眠気が一気に吹っ飛ばされるスマホのバイブレーション。

嫌な予感がしつつ、応答してみれば、予感は的中。




彼の仕事柄、突然の休日出勤なんて珍しくはないのだけれど。



明日は、久々に二人とも休みが合う日だったじゃないか。

お互いになかなか忙しいから、いつもはどちらかの家でまったりお家デート。

久々のお出かけデートに浮かれていたのは私だけだったのか。



否、彼も彼なりに善処したのかもしれない。
その結果の休日出勤ならば、やむなし。




それでも不機嫌な気持ちが拭えない原因は、ちゃんと分かっている。



『悪ぃ、明日仕事になった。』



その一言だけで済まされたのが無性に腹がたつ原因。

こちらが文句の一つも言う前に切られてしまうという一方的な連絡。




むしゃくしゃするけれど、昔からストレスの発散の仕方が下手であることは分かっている。

どこかに出かけてやろうかとも思うけど、それもなんだか面倒で。

しかも、どうせカップルだらけの街にこんな気持ちで出歩く気にはなれない。



「いいや、もう。今日はダラダラ過ごす。一歩も家から出るもんか。」


独り言を言って、とりあえず洗濯はしておこうと思って立ち上がる。



ふと、視界の中に今日渡すはずだったそれが入ってきて
思わずクローゼットに仕舞い込んだ。




適当に家事をこなして、冷蔵庫のありもので適当なつまみを作る。

こういう日は、早めの晩酌に限る。

早い時間に食事を済ませて、早めに寝る。
最高の贅沢ではないか。

お肌のゴールデンタイムにしっかり睡眠がとれるなんて、美容にも良い。




そんなことを思いながら冷蔵庫から、
ビールと冷やしておいたグラスを取り出す。

プシュッと缶を開けてグラスに注げば美味しそうに泡がたつ。



「んんー!んまいっ!」



一口飲んで、わざと大袈裟に言葉に出してみる。
こんなに独り言が増えたのは最近だろうか。
でも、こういった自由な幸せを感じられるのは一人暮らしの醍醐味。


自分で作った肴に、自画自賛をしながら一人の時間を満喫する。




ふとテレビをつけてみるけれど、あまり興味を惹かれる番組もなく、すぐに電源を落とした。


そんな瞬間に、急に寂しさを感じてしまうのも、一人暮らしならでは。



「正義の、ばーか」



思わず言ってしまった。
こみ上げてくる寂しさはどうしようもなくて、悪態として口から漏れた。





ーガチャッ




ふいに、リビングとキッチンをつなぐ扉が開いた。

驚いて振り返ると、いつもの青いジャンパーを羽織った谷村がそこにいる。



「だれが、馬鹿だって?」



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