隣の谷村さん



仕事の帰り道。
いつも寄る、コンビニ。
スーパーなんかにあるものよりも一回り小さい、
店内用のカゴに放り込むアイテムは、
ほぼ決まっている。

サラダチキン、
キャベツの千切り、
グリーンスムージー(メーカーは毎日違うものをチョイス)。

一時期、サラダチキンはコンビニで買うよりも自分で作った方が経済的と、
スーパーで鶏胸肉を買い漁った時期もあったけれど
手間をかけてコスト削減するよりも
その時間をジムで過ごす時間に充てた方が透子には合っていた。
キャベツもひと玉買って千切りにする手間より、以下略。
いつか、グリーンスムージーを作るために買ったスムージーミキサーは
2、3回使ってみたものの、ここ最近はその存在を忘れているような状態。


アラサーで、独身で、仕事をして、
それなりのプライドを持って必要以上に他人に頼らないようにして生きる人生を選択している透子のような女は、
それなりに小綺麗な格好をして、
体型は20代同様とまではいかずとも、
それなりに見てくれを良く、
維持しなければならない定めなのだ。

そのために、ありとあらゆる方法で、
自分としては、コスパの良い方法で、
日々の限られた時間をやりくりしているというわけで。


決まったルートでスムージーの種類も、さほど悩むこともなく回収して、
最後にスイーツ棚にて、新作チェック。

コンビニスイーツハンターを自負する透子としては、
この日課は欠かすことができない。

そして、今日は棚に近づく前に新作の存在をアピールするポップが目に入る。

いわゆる定番商品の季節限定もの。

透子のルールとしては、よほど好みでないものでない限り、
さほど興味を惹かれなくても必ず一度は試す。
食わず嫌いほどナンセンスなものはない、という考え方である。


夜の遅い時間、新作スイーツとだけあって
棚に残っていたのはラスト1個。


透子がまっすぐに目標に向かい、
手を伸ばそうとしたところで、
サッと目標物が透子以外の手によって持ち去られた。

思わず、ハッと顔を上げてみると
そこには青色ジャンパーのイヤホンをつけた青年。

当然ながら初めて見る人間である。

透子の視線に気づいたのか、
青年がこちらに顔を向ける。
そして、透子の視線が自身の手の中にあるそれに向けられていることを察すると目を細めた。


「もしかして、これ、買おうとした?」


まさか、話しかけられるとは思っておらず。
やや驚きを隠しきれないながらも両手を上げて否定のジェスチャーをする。


「あ、いいんです。先手必勝の世の中ですから。お気になさらず。」


そんなに物欲しそうな顔でもしてたのかしら、と。
少し恥ずかしい思いをしながら
青年の横を通り抜けレジに向かう。

それが、隣人・谷村正義との初めての邂逅であった。



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