射干玉の夜、茜さす昼



久しぶりに休みが揃ったものの、
初夏の蒸し暑さと梅雨の名残の不安定な天気。


前日の夜はベッドの中で素肌をすり合わせながら


明日はどこかへ出かけようか、

ああ、そういえば夏恒例の
アートアクアリウムなんてどうだろう、

それならば、都下の動物園では珍しい動物が
期間限定で観れるらしいよ、

等と言っていたけれど。



随分ご無沙汰だった恋人の肌の感触は思いの外、
気持ちが良くて堪らなくて。




浅い覚醒と、健やかなうたた寝の間に
何度も中途半端に求め合っていたら

いつの間に日の位置は高くなっていた。


遮光カーテンから漏れる光をいい加減認めて
気だるい体を起こした。

昨夜充電しないまま朝を迎えたスマホのバッテリーは残り14%。
待ち受け画面が教えてくれた時刻は、am11:07。





お互い気を使う必要のない部屋着のまま

コーラとポップコーンを用意して、
ハードディスクに録りためた映画を見たり。

バルコニーで並んで一服してみたり。

かと思えば各々、好き勝手気ままに過ごしたり。



時折、少しだけ、お互いに触れ合って、

ふと目が合えば、
なんとなくキスをしてみたり。





ようやくと日が落ち始めた頃に大吾がつぶやいた。



「コンビニ、行かね?」



割とアクティブな気質の彼のこと。

どちらかといえば休みの日はじっとして過ごしたい透子に合わせて、1日を過ごしていたものの、
少し退屈になったのかもしれない。





自宅から一番近くのコンビニまで。

生温い夏の夕方の空気の中、
普段の二人からはあまり想像のつかないラフな格好。

つっかけたクロックスもどきのサンダルはドンキホーテで以前お揃いで買ったもの。




大吾の持つグリーンの買い物カゴには乾き物と缶ビール。

そこへ、ポイッと昔懐かしいアイスを透子が放ったのを珍しいな、と思った。





コンビニを出てすぐに大吾の持つレジ袋から、
最後に透子がカゴに放ったそれを取り出す。

そのまま、パッケージを引き裂いて中身を出す透子を見て大吾が言った。



「普段は買い食いなんてみっともない、って透子が言うのにな」


「良いのよ、パピコは特別よ。溶けたら意味ないじゃない。」



二つに分けた片割れを大吾の方へ差し出しながら、すでに自分の分はビニルの封を切って口に咥えている。

今日はほとんど化粧をしていないことも手伝って、
いつもよりもずっと子供っぽい透子の姿に、
思わず笑みをこぼしながら大吾が片割れを受け取った。



「すっげ、懐かしい味。」


「ね。私もかなり久々。おいしー。」



自宅までの、ほとんど人通りのない道を並んで歩きながら夏の蒸し暑さを感じつつ。

時折頬を撫でる爽やかな夏の風に大吾が目を細めた。



「久々じゃない、こういう休みの過ごし方。」

「お前の休みの日は割といつもこうだろう?」


大吾のその言葉に、透子はげんなりした表情でかぶりを振った。


「私じゃないわよ、あんたの方。ダラダラ過ごすのも有意義なのよ。」


盛大なため息とともに、そう言った透子の言葉に、思わず目を丸くして

しばらく思案するように大吾が夕暮れの空を仰いだ。



それからすぐに、小さくうなづくと口元を緩ませて

返事の代わりにそっと。


小指同士を絡めてみたら、

茜色に溶けそうな笑顔で笑ってくれた。






【 射干玉の夜、茜さす昼 】



片時も離れずに、なんて。

そんなの 無理が過ぎるもの









2016/07/21



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