肝試しをやろう、なんて言い出したのは一体どこのどいつだ。高校生活最後の夏。受験一色になる前に、クラスで何か思い出作りを。ここまでは理解できる。だが、それが肝試しでなくてもいいではないか。半泣きになりながら、木陰に隠れること五分。否、十分。二十分くらい経ってるのでは?あぁ、もう時間の感覚もマヒしてきた。
人一倍怖がりの私は、肝を冷やす度胸がなく、自らお化け役を買って出た。が、こんなにも後悔することになるとは思わなかった。そうだ、肝試しは脅かす側の方が怖いのだ。そう初めて痛感した高校三年の夏。あまりにもしょっぱすぎる。
そして、何度目かのため息をついた時、後ろからガサっという物音。あまりの恐怖に体が動かない。やばい、死ぬ!

「桜城」

「ひっ・・・あ、赤葦・・?」

私の肩を掴んだ正体は、隣の席の赤葦だった。赤葦はお化け役じゃなかったはずなのに、どうしてこんなところに。混乱した頭で途切れ途切れにそう質問すると、呆れ顔の赤葦は「怖いなら怖いって言いなよ」とため息まじりに言ってきた。

「なんで、来てくれたの・・?」

「・・・桜城が、心配だったから」

肩と肩が触れ合う距離。赤葦の真剣な声色は、私の頬を熱くさせるのに充分すぎた。後ろからクラスメイトの退屈そうな声。お化け役が仕事を放棄してしまっているのだから当然だ。真っ白い布に身を包む私の顔は、今何色に染まっているのだろうか。

「俺の言ってる意味、分かる?」

「っ・・・」

いつの間にか握られていた右手。返事の変わりに彼の長い指に自分のを絡ませる。一瞬驚きの表情を見せた赤葦は、その後クスリと笑い、ただ私の隣に黙っていてくれた。恐怖心はいつの間にか消え、寧ろこのまま時が止まればいいのにと、調子のいい私は静かに願った。
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