走る。走る。走る。走る。
踏み出す一歩一歩に力が込められ、身体中が躍動感に包まれる。
身体の底が燃え上がっているように熱い。まるで自分自身が動力部となり手足を動かしているようだ。
一歩、二歩、三歩。交差点まで来て、一端足を止める。そういえば、最近このあたりで事故があったらしい。薄暗い夜のランニングは危険かも、…そう思った瞬間目の前を車が通っていく。
「ったく…、一時停止くらいしろよな」
そう言う自分は随分と長い一時停止をしてしまった。進もうか、と考えて、止めた。引きかえそう。そういえば、お腹が空いた気もするし。
Uターンをして、息を整えまた走る。だんだんと昂っていく高揚感が心地いい。
家まではあと何メートル位だろうか。三十分は走ったから…五キロくらいだろう。周りの家には明かりが灯っているが、このあたりは校区外だし、知っている家はない。そういうのも、この沸き上がってくる熱の源になっているのかもしれない。
狭い道、夕暮れの住宅街。喧騒は聞こえど、人の姿は見当たらない。
走るのは好きだ。他の運動だって嫌いではないが、走っているときのドキドキは味わえない。もし走るという行為に思いを寄せることが許されるなら、一生の伴侶としてもいい。それくらいに自分は、俺は、この行為に魅せられている。
どんなに疲れていても走るのを止められないのは、走ることに憑かれているのかもしれないな、なんて、下らないことを考える。
「はっ、は…」
息遣いが荒くなりながらもラストスパートをかけるべく、足に力を入れる。たっ、と踏み出す一歩に全力を込める。
陽は完全に落ちた。どこまでも暗い道の先まで、走り続けることが出きる気がする。