「半田、花見にでも行こうか?」

俺がそう提案すると、半田は不思議そうな顔をして首を傾げた。もう梅雨も終わろうかという7月初め、確かに花見には不似合いな時期ではある。

「…花見ぃ?」

「狂い咲きの桜が裏裏山に一本あるんだ」

「えっ!マジで!!」

噂好きな円堂から今朝聞いた話はやはり半田はまだ知らなかったらしく、怪訝な表情から一変、きらきらとした笑みを浮かべた。

「マジマジ。この季節ならまだ明るいしさ片付け終わってから行かないか?」

二人とも手には5、6個のサッカーボールを抱えている。偶然を装って、わざわざ半田と俺の片付け当番を週末のこの日にあわせたのだ。

「な?いいだろ」

半田はそうは思っていないだろうが、俺にとってはたまのデートだ。失敗するわけにはいかない。

「うーん、そうだな。何だかんだで今年花見行ってないし…見たい、かも」

「よ、よし!じゃあさっさと片付けて行こうぜ!」

何で臨戦体制みたいになってんの、と呆れてこちらを見る半田に、俺はにやけ面を隠すのが精一杯だった。


「うおーすげーっ」

と、ありきたりな感想を述べながらも半田はやはり楽しそうに笑うので俺はそれだけで満足だった。記憶していたよりも山道は遠く、日はもう沈みかけていたけれど、逆光に照らされた桜は半田でなくともすげー、としか言えないほどの美しさだった。

「はは、半田口あきっぱなし。まぬけだな」
「なっ!なんだとお…」

長い距離を歩いたにもかかわらず、半田はまだまだ元気がありあまっているようで、俺につかみかかってきた。顔は笑っているので怖くは全然ない。俺はそれを軽くあしらいその結果尻餅をついた半田の横に、座り込んだ。

「綺麗だろ」

「ああ、そうだな。でももう散りかけちゃってるよなー」

また今度みんなと見に来たかったのに、残念。そう言う半田に俺は曖昧な笑みを返す。

「狂い咲きの桜はもう来年は咲かないんだ」

「え、…そうなんだ…。」

「それでも、最後に綺麗に咲いた姿を人に見せたくて、一生懸命咲いてるんだ」

「…そっか、そうだよな」

おれの言葉を聞いて、半田は改めて桜の木をじっと目に焼き付けるように見た。その目はとても真剣で、しばらく声を掛けるのが躊躇われた。

帰り道に裏山の方を見上げると、桜の木があった辺りだけほのかに光っているような気がした。世界はとても残酷だけれど、おれの見るこの景色はこんなにも美しい。


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