円堂守という名の男の子がいる。サッカーが大好きで、皆に優しくて、いつも笑顔で前向きで、そして、すこし不思議な男の子。

「円堂くん、ドリンクの用意できたからそろそろ休憩にしたら?」

「ん?ああ、そうだな」

そう言って円堂くんは皆を呼び10分休憩だと伝える。それからドリンクのひとつを手に取り、ベンチの私の横に座った。

「あと3日、か」

長かったような短かったような、私たちのサッカー部での二年半はそろそろ終わりを迎えることが決まっている。全国大会まで行ったので、他のどの部より遅い引退だ。

「そうね…ほんと、いろいろあったなあ」

私と円堂くんは二人でグラウンドを見る。たくさんの部員、きれいな設備、どれも最初の頃には考えられないものばかりだ。しみじみと哀愁に浸っていると、私たちの方へ歩いてくる影があった。

「半田、染岡!」

円堂くんはうれしそうに二人を見て、ベンチに座るよう促した。どうみても余っているスペースに二人は座れない、私が立ち上がろうとすると、染岡くんに制された。
座ってろ、ということらしく半田くんが座り染岡くんは立ったままということになったようだ。染岡くんと半田くん、そして私と円堂くんは最初のサッカー部員だ。一番長い間一緒にいて、一番たくさんの苦労を共にした。

「サッカー、楽しかったよな」

確認するように、ひとつひとつの思い出を噛み締めるように円堂くんは言った。それに、染岡くんと半田くんは当たり前だろ、というようにうなずく。

「いろいろあったけど、やっぱサッカーやっててよかったよ」
「そーだな、サッカーのお陰でいろいろ経験できたしな」
「吹雪とも会えたしなー」
「うるせえっ!」

ふたりのやり取りを円堂くんは笑いながら見ていた。それからふと私の方を見て同じように聞いてくる。

「楽しかったよな?」

…楽しかった、に、決まってるよ。皆と一緒にサッカー出来てよかった。ほんとうに幸せだった。そう言いたいのに、目頭が熱くなって涙をこらえるだけで精一杯になってしまう。

「秋?」

「ありがとう、円堂くん」

やっとの思いでそれだけを伝えた。まだ最後じゃないのに、泣くなんてみっともないと必死で笑顔を作る。ありがとう、円堂くん。ありがとう、私の大好きな人。私は、この二年半、ほんとうにほんとうに幸せな女の子でした。さようなら







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