「むなしいね」

そう言いながら基山は緑川を抱き締めた。夜は11時を回ったところ。基山の自室で二人は互いを慰めるように無意味な傷の舐め合いを今日も繰り返していた。

「緑川はさ、どうして俺に付き合ってくれるの」

この基山の言葉も毎度お馴染みのものだが、それを聞くたびに緑川は悲しそうに顔を歪める。いつになったらこの孤高な孤独者は自分を信じてくれるのか。もっとも、そんなことは基山自信も分からないだろう。双方共に望んでいるかさえも怪しい。

「いたいよ」

基山の腕がきつく緑川の肢体を締め付ける。それに抗議するように緑川がそう口にするが、さして意味などない。この状態の基山は他人の声など聞いていないのだ。もちろん、緑川も聞き入れてもらえるとは思っていない。

「ヒロト、」

緑川は泣きそうな顔で、声で呟く。それでも、基山は緑川がなぜ泣きそうなのかは理解できず、不思議そうな顔をした。

「いたいよ」

今度は基山が同じようにそう言った。

「どこが?」
「心が」

今度は二人で泣きそうな顔をして、それから基山が一人で泣き出した。年齢にそぐわない無邪気で切実な泣き方。緑川は右手でぽんぽん、と基山の肩を撫でるように優しく叩いた。

「泣かないで」

その言葉に基山は泣くのを止めようと鼻をすするようにする。しかし、泣き止むことは出来ない。
当たり前だ。
どうして泣いているのか基山自信すら分かっていいないのに、涙を止める術があるはずがない。しばらく緑川は基山をなだめてみるが、今日もそれは徒労に終わった。疲れ果てた緑川は基山と同じように泣き始めた。その泣き声を聞くと、基山は唐突に緑川を抱き締めていた手を離した。反動で緑川は布団に倒れ込み、基山は空になった自身の両手をじっと見た。

「ごめんなさい」

どちらからともなく言った声が無機質な部屋に響き、二人はまた沈黙の中に深い思いを馳せた。

きれいなふりをしていてごめんなさい。


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