曇天の空が私の心のようならば、
貴方の心は月のない夜に似ている。



豪風。※ちょっとだけ豪鬼
豪炎寺があまり良いやつじゃない、且つ、風丸がヤンデレもどきです。









豪炎寺修也は俺の恋人である。つまり相思相愛であるはずだ。少なくとも、俺は本気で豪炎寺が好きだし、豪炎寺なしじゃ生きられない、くらいには感じている。実際のところ豪炎寺依存症といってもいいくらいだ。ただ、付き合う切っ掛けは成り行きとしか言えないだろう。俺は当初豪炎寺を恋愛対象としてなんて見てなかったし、多分豪炎寺も俺をそういう風には見てなかったと思う。これはあくまで、多分、だけれど。

とにかく、今回大切なのは俺と豪炎寺が恋人同士である、という点。そして俺の恋人である豪炎寺が浮気をしている、かもしれないという点だ。


「豪炎寺、あの、話があるんだけど」
「悪い、今日は急ぎで帰らなくちゃ行けないんだ。明日じゃだめか?」

またこれだ。少し前までは毎日一緒に帰っていたし、結構な頻度で豪炎寺の家にも行っていた。けれど最近はやけによそよそしい。
何かをこそこそやっている風ではないし、束縛したい訳でもない。それでもここまでないがしろにされたら俺のプライドが持たない。というのは建前で、正直なところさみしいのだ。今日じゃないとだめだ、と言ってやりたい。


だけど、そんなの俺のわがままだから、と我慢して居たのが昨日までの話。

偶然みてしまったのだ。俺との約束を反故にした豪炎寺が鬼道の家に入るのを。もちろん、真っ当な時間に訪ねるのなら何か大事な用件でもあるのかもしれないと考えられる。けれど、俺が見かけたのは夜9時過ぎだ。……信じたくはない、でも、浮気としか考えられなかった。

そうして今日、俺は部活の後に豪炎寺を呼び出した。

「……来てくれたんだな、よかった」

扉を開け部室へと入ってきた豪炎寺を見てそう言う。すると、豪炎寺は怪訝そうな表情を浮かべながらもロッカー側に居る俺に近づいてきた。

「呼ばれたからくるのは当たり前だろ」

「……いや、俺の事なんてもうどうでもいいのかと思ってさ」

俺の言葉に豪炎寺はますます首を捻る。本当に心当たりがないのか、しらをきっているだけなのか、俺には判断のしようがない。ただ、どちらにせよ俺がとる選択肢は変わらない。

「お前、最近変だぞ」

「豪炎寺こそ。……昨日さ、鬼道ん家でなにやってた?なあ?」

慌てるかと思った。あるいは、しらをきり通すかと。
しかし、豪炎寺はそのどちらもせずにのうのうと言ってのけた。

「なんだ、やっぱり風丸ついてきてたんだな」

「なっ……!」

バレていたのか、いや、豪炎寺が気付いたような素振りはなかったハズだ。それならば、つまり、

「さ、最初から俺がお前の後をつけると予測して……」

「まあ、そうなるな。」

豪炎寺はためらう風もなく言うと俺から目線を外し、呆れたようにため息をついた。

「風丸はもっと利口かと思ってたよ」

「…っ、どういう意味だ!」

「怒鳴るのか。…お前は単純なんだ。」

目を合わせてくれない豪炎寺は何だか凄く遠い所に居るみたいで、手を伸ばせば届く距離にいるのにそれが怖くて堪らなく感じた。
かつかつ、とスパイクの音を響かせながら豪炎寺はさらに俺との距離をつめる。目と鼻の先まで来てから、豪炎寺は口を開いた。

「じゃあ、別れようか」

頭の中が真っ白になり、何か言わなくてはいけないと思いながらも脳はまともに働いてはくれなかった。とりあえずひき止めなければ、と、出口へと向かう豪炎寺のユニフォームの裾を掴んだ。

「何だ、」

「…ご、豪炎寺は、俺の事が嫌いになったのか……?」

「別に。好きだよ、愛してる」

「じ、じゃあ、なんで、鬼道、と」

「……まだ何かしたなんて言ってないだろ」

はっ、と思い顔を上げるが豪炎寺はやはりもう俺の方を見てはいなかった。

「とにかく、風丸が俺をどう思ってるか知らないが、俺はお前の理想を演じるつもりはないからな」

「いいから!」

思わずまた大きな声を出してしまった。何もかも捨てる覚悟は最初から出来ていたはずなのに。

「いいから、別れるなんて言わないでくれ……」

「鬼道と何かしたかもしれないんだぞ?」

「そんなの、構わない。豪炎寺が俺から離れていくのが一番恐いから、そうじゃなければ何だって耐えてみせる」

「……そうか、じゃあ別れるのは無しだ」

ようやっと豪炎寺がこちらを振り返り笑いかけてくれた。俺も笑い返して、全ては元通りになった。

帰り道もいつもみたいに普通に話せた。ただ、「俺の行動には口出ししない」、とだけ豪炎寺に約束させられた。



悔しさと悲しさでいっぱいのはずなのに、何故だか涙は出ない。代わりに、心のもやもやが大きくなるのが分かった。




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