久遠道也は世界一の○○
私は久遠冬花。
そして私のお父さんは久遠道也。
血が繋がってないことなんて関係ない。私のお父さんは世界で一番素敵なお父さんです。

小学四年生の時、いっしょに動物園に行ったよね。忙しくてなかなかお出かけなんて出来なかったけど、その日は1日とても楽しかった事を覚えてるよ。不器用なのに可愛く作られたお弁当、ウインナーは少し焦げてたけどすごく美味しかったなあ。

中学に入学する時、わざわざ仕事をやすんで入学式に来てくれよね。周りの同級生にかたっぱしから「冬花をよろしくお願いします」、なんて言うからちょっと恥ずかしかったよ。だけどお陰でたくさん友達が出来た。何人かの子は、お父さんのことかっこいいって言ってたの。でもお父さんがとられちゃうかと思って、お父さんには一度も言わなかったけど。

中二の時、急にサッカーの監督をやるって言った時、私驚いたよね。けど本当は知ってたんだ、お父さんがサッカー好きなこと。それに、監督をやってたお父さんはすごく輝いてた。私もマネージャーとして沢山の経験を積むことができた。やっぱり、あの頃のことは今でも思い出す度にきらきらした輝きが蘇ってくるよね。

高校に入ってからは生活のタイミングがなかなか合わなかったね。一人で食べる朝ごはん夜ご飯がすごく寂しかった。たまにいっしょに食べれるときがあると気合い入れて料理してたの、本当は気づいてたでしょ。口下手なお父さんなりに誉めてくれたのがたまらなくうれしかった。

大学へは進学しないで働くつもりだったのにお父さんは私に進学を進めてくれた。家計が大変なのに、それでも、大学へ行け、って言ってくれたの本当に感謝してる。

成人式の時、ママの振り袖を出してくれたよね。小さい頃見て憧れてたの、ずっと大切にとってくれてたなんて思ってなかった。お父さんが一生懸命選んでくれたネックレス、私の好みをちゃんとわかってくれてるんだ、ってうれしかったなあ。

大学卒業して、一人暮らしを考えた。お父さんは社会に出るからには一人暮らしを経験しないと駄目だ、って言ったけど寂しくて結局二ヶ月で戻ってきちゃった。でも、毎日電話してきたお父さんも本当は寂しかったでしょう?


パパ、ママ。生んでくれてありがとう。守ってくれてありがとう。パパとママが大切にしてくれたお陰で今の私があります。
お父さん。今まで育ててくれてありがとう。冬花は世界一素敵なお父さんの娘になれて、本当に、本当に、幸せでした。

久遠冬花は本日、結婚します。



「お父さん、」

いつものように机でコーヒーを飲むお父さんに声をかける。この光景を見るのも最後かと思うと、涙が溢れそうになった。駄目、泣くのは明日までとっておかないと。

「なんだ?」

振り向くお父さんの表情もいつもと変わらない。ねえ、明日からはここに私は居ないんだよ。一人で寂しい思いするんじゃないの?……それでも、お父さんは私が結婚するのを喜んでくれたよね。

「お父さん、大好きだよ」

「なんだ、急に」

「お父さんは、世界一の……」

やだ、だめ、本当に泣きそうだ。目の奥が熱くなるのをぐっと堪える。

「久遠道也は、世界一のお父さん、です」

「冬花……」

私のお父さんは世界一のお父さん。
不器用で無愛想だけど、すごく素敵なお父さん。



「冬花、幸せになれよ」

そうやってお父さんは慣れなさそうにぎこちなく笑った。

「ばか、お父さん。今までだって、私、すっごく幸せだったよ……」

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