たからばこのなかみは



イナズマジャパンのみんなが今日はやたら家族に電話をかけている。何故だろう、と考えていたが、カレンダーを確認してやっと分かった。

そっか…母の日…。

僕には母親どころか家族はみんな居ない。それでも母親のあたたかさは覚えているから、みんなを見て何だか微笑ましく思った。そんな中、食堂のテーブルで葉書を書く緑川くんが目に入る。

「何書いてるの?」

やることもなく暇だったことも手伝って、僕は緑川くんの所へいってそう尋ねていた。

「あ、ああ。母の日の葉書。本当は今日届かなきゃいけないんだろうけど、すっかり忘れてたよ」

そう言って笑う緑川くんは他の皆とどこも変わらないように見えたけどどこか引っ掛かる…。そうだ、緑川くんはヒロトくん達と同じでお日さま園に居るはずなのに、誰に葉書を出すんだろうか。
そんな僕の疑問を汲み取ったのか、緑川くんが事情を説明し始めた。

「俺は、普通に母さんも父さんも居るよ。訳あって絶縁されたけど、母さんとは連絡とってる」

別に隠してないけどあんま言わないからヒロトとかも知らないんじゃないかなあ、そう付け加える緑川くんにおかしなところはなかった。けれど、普通に考えて中学生で絶縁なんて聞いたことがないし、実際普通の親ならばそんなことはしないだろう。

「なんで絶縁されたか、知りたい?」

書き終わった葉書を手でぱたぱたと振って乾かしながらあっけらかんと聞いてくる緑川くんに、僕は思わず頷いてしまった。
親が生きているのに一緒に暮らさないなんてズルい、という思いの裏に抗いようのない好奇心が確かにあった。



「俺には20前半の叔父さんがいて、俺が小三の時一緒に暮らすことになったんだ」

「叔父さんが?なんで?」

「最初は俺の家が大学に近いかったから、その後は仕事場に近いから。まあ、経済的事情、ってとこ。ちなみにじーちゃんばーちゃんは海外で第二の人生を謳歌してるよ」

「なるほど…。」

そうしてあっという間に僕は淡々と話す緑川くんの口ぶりに引き込まれた。

「叔父さんは頭よくてさ、俺に勉強教えてくれてたの。俺は単純だしガキだったからすっかり叔父さんになついちゃって。小四になる頃には親より叔父さんの方が大好きになってた。そんで、親に頼んで部屋まで一緒にしてもらって、一緒の布団で寝たりしてさ。寝るとき、ぎゅ、って抱き締めて貰えるのが嬉しくて嬉しくてたまらなかった。まあ、ここまで言えば分かるだろ?好きだったんだよ、本気で、叔父さんが。同性だし親戚だし、駄目だってことは小学生の俺でも分かってた。けど叔父さんは応えてくれたんだ。馬鹿みたいに真剣でちっぽけな可愛そうな俺の恋を、叔父さんは成就させてくれた。小五の時、寝る前叔父さんに、好き、って言ったらそのまま流れで行き着くとこまでいっちゃった。はは、そんときはよくわかんないし痛いし怖いし気持ち悪かった、けど幸せだったんだ。それから先は毎日寝る前、布団の中が俺と叔父さんの秘密の場所になった。でもさ、考えてみたらバレないわけないんだよ。俺は毎日馬鹿みたいにハイテンションだったし、そもそも家の壁の防音なんてたかが知れてるからな。ある日父さんが部屋に入ってきて全てがおじゃんだよ。えっと、たし
か小六の途中くらいかな。父さんはすぐに俺と叔父さんを引き離して叔父さんを殴って、それから何か汚いものを見るかのような目で俺を見たんだ。」

おしまい、と笑って言う緑川くんを僕は直視出来なかった。きっと緑川くんは今もその叔父さんが好きなのだろう。じゃなかったらさっき見たいな話を、まるで小さい時の大切な思い出を語るかのように恍惚そうな表情で話せるわけがない。

「じゃあ、俺葉書だしてくるから!あ、さっきの話、他の皆には内緒な!吹雪だから話したんだからさ」

駆け足で食堂から出ていく緑川くんを目で追ってから、僕は小さくため息を吐いた。

「吹雪だから、って……。僕が何をしたかもバレてるのかな」







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三浦しをん先生の某小説をちょっぴりオマージュ。
胸くそ悪い話が好きですごめんなさい。

11:Apr:25th/top