a deux


「円堂あのさ、俺、転校するんだ」

風丸がそう言うと、円堂は知ってた、と小さく諦めたように笑った。

「え、何で」
「こないだ職員室に呼ばれたとき先生たちが話してるのを盗み聞いたんだ」

そっか、と、今度は風丸が笑う。今にも泣き出しそうな表情に、円堂は胸の奥が締め付けられるように感じた。小さく震える肩を抱き締めようと手を伸ばすが、それは風丸の右手によって阻まれた。

「今日、ぐらいは、手繋いで帰らないか?」

円堂はすぐに風丸の右手を自分の左手と縫い合わせるかのようにしっかりと繋いだ。そうでもしないと風丸が今すぐに消えてしまうような気がしたからだ。

いつもの帰り道は円堂が話し手で風丸が聞き手だが、今日の風丸はいつもより数段饒舌だった。それはまるで今までの共有してきた時間を一から振りかえるかのように。


「俺さ、円堂と出会えて幸せだった」

分かれ道が近づいてきたとき、風丸は不意に立ち止まりまっすぐ円堂を見据えて言った。それに倣い、円堂も同じように風丸を見る。

「いろいろあったけど、ありがとな」

そう言って風丸は重ねた手をほどいた。

それから少し歩いたが、会話は無かった。円堂は言うべき言葉が見つからず、風丸は言うことは全て言い切ったと考えたから、だろう。



「…風丸」
「円堂、」

ついに分かれ道に来て、また二人が歩みを止める。どうしようもなく重い沈黙が流れ、二人とも俯いた。

そして、耐えきれず、二人とも大声で笑い出した。


「あっはははは、は。風丸最高っ」
「お前こそ、まさか知ってたとか言うとは思って無かったからな」
「だって、素直にしてやられるわけにはいかないじゃんか」
「まあな、でも雰囲気出てたよな!な、」

道行く人々が笑い終える気配のない二人を不振な目で見ながら通りすぎていく。ひとしきり笑い終え、息を荒くしながら二人は顔を見合わせた。

「お前がどっか別の遠いとこに行って、俺たちが離ればなれになるなんて考えられないよ」
「俺もだ、」

予定を変更し、円堂は風丸の家の方へと向かう。騙したお詫びに泊まっていけ、ということらしい。
ちなみに、手はまた繋ぎ直した。いつの間にか日は沈んでいたから、人通りの多いこの辺りでもさほど人目にはつかないだろう。

「エイプリルフールだ、って分かっててもちょっとショックだったしなあ」
「はは、ごめんって」「というか、嘘ついて良いのは午前中だけなんだぜ」
「マジかよ…わかった、俺転校するよ」
「えっ、いや、冗談やめろよな!」

二人の笑い声は住宅街の宵闇に深く響いた。


――――

「あ、風丸、そういえば『お前に会えて幸せだった』的なのは…」
「ああ、嘘だよ、もちろん」
「えっ、嘘なの!?」
「ああ、嘘嘘」
「か、風丸!?え、不幸せなのか?」
「だから、過去形なとこが嘘なんだって」
「えっ、ちょっと待てよ、過去形?何が?」
「……もういいよ」

11:Apr:25th/top