源田幸次郎はかっこいい。
先ほども女子がキャーキャー騒いでるのが聞こえた。知的で、男らしくて、その上優しい、非の打ち所の無い異性だそうだ。
ふむ、俺とまったくの同意見である。いやまあ、俺の場合異性ではないのだけれど。
とにかく、俺は源田の友達でチームメイトだ。さっきの女の子達みたいな源田に名前も知られてないような奴らとは違う。

部活からの帰り、自転車組の中で下道を通るのは俺と源田だけなのでおのずと二人きりの時間ができる。俺の源田に対するほのかな恋心とは裏腹に、部活で疲れきっている俺達の間には会話すらほとんどないのだけれど。

「じゃあ、また明日」

「あぁ」

ほら、またすぐ分かれ道がきてしまうことくらい分かっているのに。毎日毎日こんな調子では俺の恋心が成就する日は数万年あとだろう。いや、成就する見込みなんて数万年後にもないだろうけれども。

離れていく源田の背中を追いかけられたら、それから思いを伝えられたら。
両思いなんて望んでいないからそれだけでも出来たら良いのに、と毎日考える。けれど、臆病で弱虫で卑怯な俺にそんなことが出来るはずもなくずるずると日々は過ぎてゆくのだ。


――――
佐久間次郎は美しく聡明だ。

あと、本人はおそらく全力で否定するだろうが時々たまらなく可愛い。すごく可愛い。男子に対して使う言葉じゃないと重々承知しているが、敢えて言わせてもらう。俺は佐久間以上に可愛い人間を知らない。

これだけ言えばわかってもらえると思うが、俺は佐久間に報われない恋をしている。

幸いにして俺と佐久間は同じ部活で、ポジションこそ違うがそこそこ親しい仲だと思う。それだけは勘違いではない筈だ。
さらに幸運なことに俺と佐久間は帰り道が同じだ。しかも二人きりだ。だがしかし、俺はこのモノローグのように饒舌に話は出来ない。時たま話題を振ってくれる佐久間に「あぁ」とか「俺もだ」しか返せない。一言も話さない時さえある。互いに部活で疲れているという事を差し引いても自己嫌悪だ。

そして今日も分かれ道である。
平静を装って分かれるが、「送っていこうか」などと言えたらどれだけいいだろうか。いや、佐久間が嫌がることは分かっている。それでも少しでも長く一緒にいたいのだ。
だがしかし、俺は臆病で残念な男である。今日も振り返って名残を惜しむ事さえできないのだ。








二人が思いに気づく日は何時なのか。


11:Apr:1st/top