新しく建てられたやけに広く綺麗な部室の片隅で、彼はいつも一人で泣いている。部活ではやたら気丈に振る舞うくせに、毎日毎日儀式のように涙を流し続けるのだ。どうせ彼と思いを共有出来る人などもはやここには居ないのに。…それでも彼を探しにくる自分も大概であるけれど。
「半田、」
二度や三度声をかけたくらいでは彼は返事を返すどころか一切の反応をしない。肩を揺さぶるとやっと顔を上げこちらを見る。そして、目の前に居るのが自分だと認識した途端目をそらすのだ。
「半田、あのね、」
自分が言葉を続けたところで半田が理解してくれるとは思わない。けれど、今の状態の半田をそのままに出来るほど自分は非情ではない、つもり、だ。実際、半田を追い詰めてしまっているかもしれなくても。
「半田は頑張ってるよ」
半田が何を思って泣くのか、完璧に分かってやれるなんて思ってはいない。しかし、半田ほどでなくとも自分だって同じような気持ちは抱いている筈なのだ。
「半田」
屈んで手を伸ばすと、半田は自分のシャツの裾を引っ張った。自分は行き場のなくなった手を半田の頭に持っていき、軽く撫でる。堰を切ったように半田の目からさらに止めどなく涙が零れ、そうしてやっと半田がぽつりぽつりと呟き始めるのだ。
「俺、さ。悔しいんだ。エイリア学園の時だってそうだったけど、自分の弱さを思い知らされて。悔しい、悔しくて、それで、怖いんだ。円堂達をテレビとか雑誌で見れないんだよ。なんかさ、俺のことなんて忘れてそう…いや、そもそも次元が違うんじゃないか、って思っちゃって。ずっと一緒にやってきて、仲間だったはずなのに。……遠くて、どれだけ手を伸ばしても届かなくて。気を紛らわすために部員募集してみて、これだけ大所帯になったけど、やっぱり俺が望んでた雷門サッカー部じゃないんだ。違うんだよ、こんなの。」
一息でそこまでいってから、半田は小さく「ごめん」と言い自分のシャツから手を離した。自分はしゃがみ、半田と同じ目線に座る。
――僕だって、分かるよ。その気持ち。でも半田は一年の時からずっとで、最初の最初の雷門サッカー部からだもんね。
「円堂も、染岡も、凄く楽しそうだしさ。一人だけ取り残されてるじゃん、俺。一人で懐かしんで悔しんで。…結局、俺にサッカーの才能がなくて、俺の努力も足りなくて。最初からみんなとは違ったんだろうけどさ。でも、でも、…やっぱり、一年の時、四人でやってたのが一番楽しかったなあ、って思っちゃうんだよ」
「ごめん」
▽11:Mar:28th/top
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