どうせ僕らは幸せになれない∴中一時。映画小説微ネタバレ。


保育所の三年間と小学校のうち四年間、そして中一の今。通算して考えると、今まで生きていた半分以上円堂と共にしている計算になる。
仲良くなったキッカケとか、喧嘩してまた仲直りした回数とか、そんなの覚えてないくらいの長い付き合いに辟易することなく、今日も俺達は親友である。


「部活?」

「そう、部活。風丸はどうするんだ?」

入学式から一週間。ようやくクラスにも慣れてきた時分の昼休み。出席番号順に並んだひとつ前の席から顔を俺に向けて円堂が尋ねてくる。

「……あんまり考えてなかったな。とりあえず、運動部一通りまわってくるつもり」

円堂は軽く、へぇ、と相づちを打ち、それから思い出したかのように机の中をあさる。取り出したのは一昨日配られた部活一覧表で、どんな仕舞い方をしていたのか分からないが、円堂のそれはぐしゃぐしゃになっていた。

「円堂は?」

「俺?もちろんサッカーだよ!」

満面の笑みで答える。そんな姿を微笑ましく思ったのもつかの間、だんだんと一覧表を見る円堂の顔が曇る。

「どうしたんだ?」

「サッカー部が、ない」

部活一覧表を指差しながら悲痛な表情を浮かべる。円堂からその紙を受け取り一通り眺めてみるが、確かにサッカー部、の文字は存在しなかった。

「そういえば、昨日の紹介にもなかった、かも」

「なかった、けど、部長が休んでたとか大会と被ってみんな公欠とかかと思ってたんだよ…」

そう言った円堂は机に顔を突っ伏し、足を放り出して全身で落胆を表現した。円堂がどれだけサッカーを好きか知っている自分としては何とかしてやりたいが、こればっかりはどうしようもなかった。

「けど、これだけのマンモス校なのにサッカー部が無いのは不思議だな…今度先生に聞いてみたらどうだ?」

「そうだな!うん、もし無かったとしても作ればいいんだもんな!!」

立ち上がりやる気を見せる円堂に、俺も手伝うよ、とは言えなかった。もともと俺は円堂ほどサッカーは好きではない。でも、それ以上にもっと明確に、俺の中では初めから決まっていたことだった。

これ以上、円堂に依存してはいけない。


俺が陸上部に入るのを決めた頃、円堂はサッカー部の始動を知らせてくれた。一緒にどうだ、と誘われる前に、陸上部に入るんだと告げる。円堂はそれに少し残念そうな顔をした。けれど、それだけだった。
サッカー部はやはり存在しなかったが、同じ一年で二人部員が集まったらしい。嬉々として告げる円堂は幸せそうだった。それと同時にマネージャーが居ることも教えてくれたが、それはよく知っていた。
木野秋、クラスメートの可愛らしい女子だ。入学早々円堂と頻繁に行動を共にしているため、付き合っているのではないかと噂されていたのを聞いたことがある。ただ、円堂の様子からするとそれは違うらしい。そのことにホッとする自分がいて絶望した。違う、違う。親友に彼女が出来るのは喜ばしいことなんだから。
それでも、本当に円堂に彼女が出来たとき喜んであげられる自信は何処にもなかった。



「…今日で一緒に帰るのも最後か―」

夕方五時過ぎの通学路。この道にもかなり慣れてきた頃体験入部期間は終わった。明日からは本格的に部活が始まるから同じ時間に帰るなんてことはできないだろう。そう思い呟くと、円堂はまるで今その事実に気づいたかのような顔をした。というか、実際今気づいたんだろうけど。

「え!じゃあ明日から俺、誰と登下校したら良いんだ!?」

「登校は、別に今まで通りでいいだろ」

そのうち朝練とかも始まるかも知れないけれど、それまではそのくらい許されるだろう、という自らに課した譲歩ラインがこれだった。

「下校は――、サッカー部のやつらと帰ればいいんじゃないか?」

たとえば、あの女の子らしい魅力的なマネージャーとか。言おうとして、口をつぐんだ。これじゃあただの嫉妬屋の皮肉だ。そもそも、俺はあの子以外のサッカー部を知らないわけだし。

「そっか…いや、そりゃそうだよなあ」

手を首の後ろで組んで何か考え事をするように円堂が独り言のように呟く。それから、数歩後ろを歩く俺の方を振り向いた。

「じゃあ、風丸は陸上部のやつらと帰るのか?」

そんな質問が円堂から返されるのは少し、いや大分意外だった。もしかしたら、円堂も俺と同じ気持ちなんじゃないかと錯覚しそうになる。そんなはずないのだ、と、俺が一番分かっているのに。

「ああ、そうなるだろうな」、そう答えた時の円堂の顔がどこか寂しそうだったのも俺が都合よく解釈しようとしているからだろう。


「そっか…じゃあ、陸上がんばれよ」

「ああ、お前もな」



それからいつもの分かれ道にきたとき、そういうふうに俺たちの道も分かれていったのでした。
それが、一年と少し前のお話。


――――



vain様に提出。

11:Jan:30th/top