あけおめ小説。
/一ノ瀬と半田の場合
何だか下品な上にシリアスです。
他の話とは明らかに系統が違って私も戸惑ってます←




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玄関の扉を開けると、そこには馬鹿がいました。



「半田!明けましておめでとう!」

「……その挨拶にはまだ早いんじゃないのか?」

10時30分の約束に向け、余裕を持って家を出る。そんな俺の普通の行動を一ノ瀬はいつも邪魔してくるのだ。やつ曰く、「愛」らしいけど、そんな愛なら着信拒否だ。……出来ることならそうしたい。

だが、なんということでしょう。俺と一ノ瀬はいわゆる相思相愛の恋人同士なのです。……いや、さ、実際好きだけど。好きなんだけ、ど。

「早い…?ああ、そっかぁ!今は日本に居るから時差とか気にしなくていいのか」

正直、ウザい。とりあえずということでいっしょに待ち合わせ場所である公園の北門(通称トーテムポール)まで歩いているのだが、一ノ瀬の話し声は止まない。

違う、そうじゃない。そんなことはどうでもいいのだ。いや、良くないけど。
俺が思うに、俺と一ノ瀬ではどう考えても釣り合わないのだ。先にアプローチを仕掛けてきたのは一ノ瀬の方だし、告白だって一ノ瀬からだった。正直、意味がわからない。
どうして一ノ瀬は俺を好きになったんだ?サッカーの才能に恵まれて、不幸な境遇に陥っても決して努力を怠らない。誰にでも平等に優しくて、社交的で明るい。どう考えても一ノ瀬が俺と付き合う理由なんてないじゃないか。

「……えっと、半田?」

「、え!……何?」

気が付いたら考え事をしたまま大分歩いてきていたようだ。一ノ瀬が一人喋りを止めて俺に話しかけてきた。

「道、違ってない?」

「……は?、あ!」

周りを見渡して見ると普段は好んで近づかない区域に来てしまっている事に気付いた。つまり、歓楽街である。
さらに今は夜、遅く。色とりどりのネオンが艶やかに輝いている。区の規制が厳しいから客引きとかは無いけど、中学生にはかなり場違い。

慌てて少し暗い脇道にそれる。街灯の光は心もとないが明るすぎる夜の町にはこれ以上目が当てられない。
とりあえず場所を確認しよう、と携帯を取り出そうとしたのだが携帯に伸ばした俺の手を一ノ瀬が制した。

「ご、ごめん……」

「いや、一ノ瀬は悪くないって」

そう、一ノ瀬を責めるわけにはいかない。この辺の地理には疎いだろうし、何より注意力が散漫してたのは俺の方なのだ。

「そうじゃなくて、」

「…?」

「まさか、半田がこういうことに興味あるなんて思ってなくてさ……。」

一ノ瀬の視線の先にはピンク色の看板。そこには文字が刻まれていた。

「休憩、4000え、ん…?」

「えっと、それくらいなら俺払えるけどっ!」

何かを勘違いした一ノ瀬が財布の中身を確認してからそう言った。
そうだ、そう言えば昔、近所のお兄ちゃんから聞いたことがある。「歓楽街に万が一行ってしまっても横道にだけはそれるなよ、大人の階段を二段飛ばしすることになるからな…!歓楽街は一本道だから、まっすぐ前か後ろに進めばいいんだ!」

そうか、それがこれか。ラブホくらいは流石に知っている。しかし、知っているのと実際見るのとは大違いだった。
ゴシック調の外観に、入り口には花壇があり一見そういう建物には見えない。だが、窓がなく、入り口もよく見ると奥が覗けないようになっていて――
いや、建物の特徴を話している場合ではない。この場合優先すべきは一ノ瀬を止めることである。

「一ノ瀬っ」

「えっ?泊まり…?参ったな、流石に一万はないよ……」

「そうじゃなくて!」

駄目だ、相変わらず一ノ瀬とは話がまともに通じない。
仕方がないので財布から離した一ノ瀬の左手を掴みそのままダッシュした。珍しく一ノ瀬は何も言ってこなかったから、歓楽街を抜けるまで一気に。




「約束の時間、すぎちゃったね」

「うん…悪ぃ」

「ううん。半田と居れたら俺は幸せだよ」

うっかり引き返すべき方向とは逆に進んでしまったらしい。時計を確認すると約束まであと10分で、走っても間に合いそうには無かった。
とりあえず、ということで小さな不動尊のベンチに腰掛けて途中で買った缶コーヒーを飲んだ。ちなみに一ノ瀬はおしるこ。やつは元来日本食が好きらしい。

「ねえ、半田」

「んー?」

空になった缶を口にくわえながらかるく返事をする。

「好きだよ」

「ああ、うん。そう」

缶を左手に持ちかえ、向かいにあるゴミ箱目掛けて軽く投げた。小気味良い金属音が響く。ナイス、俺。

「本当に好きなんだ」

「へぇ」

どうして?どうして俺のこと好きなんだ?そう聞きたい。聞いてもやもやした気持ちを無くしたい。
だけど、弱っちい俺にはそんなこと聞く勇気がない。その壁を越えない限り俺と一ノ瀬はずっとこんな風に怠惰な関係を続けて行くのだと分かってるのに。それなのに。


「いつか、いつか半田が本当に俺を好きになってくれたら――」

「ばーか。今だって好きだよ」

「ありがと。俺も大好き」



とりあえず、年が明けるくらいまではこのまま二人でいることを許してください、なんて。


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あれ……。

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