あけおめ小説
/源田と佐久間と鬼道さんの場合



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新年を迎えるまであと二時間を切った。除夜の鐘が鳴り響く頃、俺はというと恋人と共にニューイヤーパーティーに来ていた。
それだけ聞くと、なんて仲睦まじいカップルなのだろうか、と錯覚してしまうだろう。だが実際は電車で一時間近くかけてよく知らない土地の公園まで来て年を越そうとしているバカ二人である。しかも、当の恋人はというと、別の男を必死になって探している。こんな所まで来たのも元はと言えばそのためだった。

「なあ、佐久間。鬼道を見つけるのは諦めろって……わざわざこんなとこまで来て、」

「超いい笑顔で、一緒に来る、って言ったじゃんか。お前」

そう、確かに佐久間に誘われてOKの返事はした。だが、「一緒に年越そうぜ!」でまさかこんな所まで連れてこられるとは誰が予想するだろうか、いやしまい。

辺りにはカップルや家族連れ、あるいは女子のグループなどが沢山いて、人混みが苦手な俺は早くも酔いそうになっている。
だいたい、終電も無くなって泊まる場所はどうするんだ、とか、鬼道が此処に来てるとは限らないぞ、とか言いたいことは山ほどある。佐久間のことだからきちんと下準備もした上での行動だろうが、やはり心配なものは心配だ。

……というか、佐久間が一緒に年越しを迎えたいのは俺じゃなくて鬼道なんじゃなかろうか。おお、まがりなりにも恋人としてなかなかにショックである。

「ほら、佐久間余所見してるとたこ焼き落とすぞ」

「余所見じゃねーよ、鬼道さん探してるんだっつーの」

そもそも、食べ歩きはあまりよろしくない。
先ほど買ったたこ焼きの舟が佐久間の手から落ちそうになっていたのを支えてやったのに、鬼道さん鬼道さん、って……。いい加減に少し悲しくなってきた。

「……あ!」

「は?」

佐久間が一点を指さすと、自然の流れにそってたこ焼きは下へ落ちる。なんとか寸での所でキャッチしてから佐久間が指差した方を見た。
ドレッド、にゴーグル。……間違いない。万が一にも同じ界隈にドレッドゴーグルが二人居る、なんて珍事体は起きないだろう。

俺が何かを言う前に佐久間は鬼道の方へ駆け出して行った。それをたこ焼きが落ちないようゆっくり歩きながら追いかける。
急に走ってきた佐久間に驚いた表情を浮かべた鬼道だったが、後に続く俺を見つけ、またか、と呆れたように笑った。


「それでですね、鬼道さん、昨日なんですけど辺見が――」
実際鬼道に会うのは俺も佐久間も二ヶ月ぶりだったから積もる話も沢山あった。おかげで話題は尽きず、桟橋の木陰で話続けた。


そのせいで鬼道が雷門中のメンバーとの約束に遅れ新年を三人で迎えるハメになったのも、結局俺と佐久間も雷門中の初詣に合流することになったのも、もしかしたら佐久間の策略だったのかもしれない。

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「あれ?そういえば鬼道さん、妹さんは?」

「ああ、春奈なら塔子や木野と一緒に北野天満宮だ……」

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11:Jan:3rd/top