正月小説
/染岡くんとふぶきゅんの場合




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三千百二十八、三千百二十九、三千百三十……。ついに着いてしまった。
インターホンに手を伸ばすけれど、押すのに躊躇ってしまう。初めて来た家だから――いや、もちろんそんな理由だけじゃないけれど。とにかく、インターホンを押さないと何も始まらない。
勇気を出せ、吹雪士郎。ここでやらなきゃ男が廃る…!

ピンポーン、

悩んだわりに拍子抜けするくらい軽い音がなった。いや、拍子抜けするもなにもどこの家庭でも同じような機械音だけれど。

奥からどたばた、とスリッパを履いた誰かが駆けてくるのが分かった。もし、お父さんとかが出てきたらどうしよう、なんて挨拶しよう……。

いつもお世話になっています。息子さんと一緒にサッカーをやらせていただいていた吹雪士郎と申します――いや、これじゃあありきたり過ぎるかもしれない。もっと仲良しっぷりをアピールすべきか…?

ガチャリ、扉の開く音がした。

「こっ!こんにちは!ええええっと、息子さんを僕にくださいっ…!」

……間違えた。しかも、一番最悪な間違え方をした。第一声と共に下げた頭を上げることが出来ずにいると、軽く頭頂部を小突かれた。……痛い……けど、つまり。

「そ、染岡くぅん!」

顔を上げてみると、やはり目の前には染岡くんが居た。二ヶ月振りの染岡くんをしっかり目に焼き付けておこうと思い、凝視する。染岡くんは困ったように笑ってから僕に家にあがるように言った。家には今だれも居ないらしいから遠慮なくあがらせてもらう。

案内された染岡くんの部屋はシンプルながらセンス良くまとめられていた。

「部屋、綺麗にしてるんだね。僕とは大違いだなあ」

ジュースを持って来てくれた染岡くんにそう言うと、大掃除を強制されたからだ、と言われた。そう、今日は大晦日なのである。

「ごめんね、こんな日に来ちゃって」

「いや、親は揃って泊まりがけでディナーショーだし、姉貴も帰省しないから一人だったんだ。どうせなら泊まってくか?」

「え!いいの??」

ホテルの予約はもちろんしてあった。けど、こころの何処かで染岡くんの家に泊まれたらいいな、って思っていた。二つ返事で泊まることを告げて、僕は慌ててホテルにキャンセルを入れる。

「そうだ、円堂たちにニューイヤーパーティー誘われてるんだ」

「へえ、何処で?」

「パーティー自体は……ほら、あっちにタワーが見えるだろ?あの公園が主催してるんだよ。お前も行くだろ?」

「もちろん。でも、いいのかな?」

染岡くんが指差したタワーは雷門に来る度に目にしていたものだった。そうか、あれは公園のシンボルタワーだったのか。

「あぁ。綱海とか立向居もこっち来てんだよ。お前見たらきっとびっくりするぜ」

「へぇ」

新年は皆で過ごしたい、と考えたのは僕だけじゃ無かったらしい。
それにしても、長旅の疲れかやたらぼんやりする。このままじゃ夜中まで起きてられそうにない。

「染岡くん、待ち合わせは何時なの?」

「ん?ああ、22時30分だけど」

それだったらまだ六時間以上ある。少しくらい仮眠をとっても構わないだろう。

「なら悪いんだけど、少し眠っても、いい、か、な…?なんだか眠く、て……」

言い終わる前に、僕の記憶は途切れた。



目を覚ますと、自分がベッドの上に居るのが分かった。眠ったのは床でだったから、きっと染岡くんが運んでくれたんだろう。相変わらず優しいなあ。
きょろきょろと辺りを見渡すと、ちょうど部屋に入ってくる染岡くんと目があった。

「やっと起きたか」

「やっと…?って、えええ!23時40分…?て、約束の時間過ぎちゃってるね……。」

もしかしなくとも大遅刻だ。僕なんかの為に染岡くんまで遅れさせてしまった……。

「ほんと、ごめんね……。」

申し訳無さでいっぱいになったけれど、そんな僕の頭を染岡くんは優しく、ぽんぽん、と撫でてくれた。

「いいって。疲れてたんだろ?」

「うう、でも……。」

とにかく行かなくては、と布団から出てコートを着ようとする。けれど、コートへと伸ばした手を染岡くんに止められてしまった。

「え、」

「どうせ遅刻は遅刻なんだからよ、年明けの瞬間は二人で迎えようぜ」

「えええええ!」


染岡くん、染岡くん、それは殺し文句、って言うんだよ。
ああもう大好き!どうしようもなく、大好きが大好きすぎる。

前略、染岡くんのお父様。
やっぱり息子さんを僕にください。


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何度書いてもギャグになって……。とりあえず、「一人は嫌だよおおおお」、を使わなかったのは正解ですよね←

11:Jan:2nd/top