あけおめ小説
/基山くんと緑川の場合



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「10時30分だけど……。円堂くん、来ないね」

「っていうか、キャプテン以外も来てないよね……。」

風丸とか絶対遅れたりしなさそうなのに。そう言う緑川には凄く同意するけれども、俺は皆が来ていないことはさほど気になっていなかった。きっとそれぞれがよろしくやっているのだろう。
円堂くんから誘われて来たニューイヤーパーティーだけど、俺は緑川と新年を二人で、二人きりで迎えられたらそれで満足だった。
お日様園では確かにいっしょに年を越したけど、それはあくまで、みんなで、の年越しだ。円堂くんに誘われたから今年も二人きりでの年越しは無理かと思ってたけど、とんでもないビックチャンスだ。
この際知り合いが近くに居なければ二人きりということにしよう。周りにはたくさんの人が居るけれど、あれは有象無象だ。気にしなくてもいい。今防ぐべきなのは、緑川が皆を探しに行くとか言い出して俺と緑川が離ればなれになることだ。
とにかく、時間を稼がなくては。

「ひ、人混みだし、きっと少し遅れてるんだよ」

「そうかなあ……。キャプテンたちは来慣れてるわけだしさあ。やっぱ探した方が――」

「それより、お腹すかない?俺、ちょっとベビーカステラ買ってくるね!」

そう告げて近くに見えた夜店に駆けていく俺。うっかり自分から緑川の側を離れてしまったけれど、年越しまでにはまだまだ時間が有るのだからそれまでに戻ればいい……の、だが。
長い。列が長い。みんなどれだけベビーカステラが好きなんだろうか。確かに周りの夜店はどんど焼きや、たこ焼き、フランクフルトとかばかりだから甘いものが欲しくなるのも分からなくもないけど!
列を抜けようかとも考えたけれど、一度買ってくると言った以上、手ぶらで帰ると緑川に不審な目で見られるかもしれないから大人しく並ぶ。大丈夫、まだ一時間以上あるじゃないか。問題ない。

なんて言ってたら、買えたのは年明けまで残り10分も無い時分だった。ヤバい、これでは緑川も怒ってるかもしれない。そう思って戻った。
手に息を吹き掛けながら寒さをしのぐ緑川は俺に気づき手を軽くふった。

「おかえり、ヒロト」

「あ、ああ。うん。遅くなってごめん」

「いいよ。俺もベビーカステラ食べたかったし」

言ってから緑川は俺の腕の中の紙袋に手を伸ばし、カステラを一つ口にした。
「それでね、皆から来れないって連絡あった。近くに神社があるらしいんだけど、12時30分にそこで合流しよう、って」

「へえ……」

「だから、年明けの瞬間は二人きりだね」

俺に笑いかける緑川が可愛すぎて、めまいをおこしそうになった……が、なんとか耐えた。
めまいなんかに二人きりの年越しを邪魔される訳には行かないからね、うん。

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