あけおめ小説1
/円堂くんと風丸さんの場合。



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「あ、花火――」

「ほんとだ……綺麗だな」

風丸と二人して空を見上げる。11時から一分毎に花火を一発打ち上げる、この公園のニューイヤーパーティーの目玉ともなっている行事だ。
ただ、鬼道に言わせるとただ花火にかけるお金をケチっているだけらしいが。……いや、そんなことはどうでもいい。とにかく、花火が始まったってことは、もう11時だということだ。

「風丸っ!」

皆と約束の時間は10時30分だから、とっくに過ぎてしまっていることになる。公園自体にはせっかく早めに来ていたのに、これでは大遅刻だ。

「なんだ、円堂?」

対して、俺の方を向いた風丸はてんで気にしていないような顔をしている。いつもは俺より時間に厳しいのに、もしかして皆と待ち合わせていることを忘れたのだろうか。

「なんだ、って……皆との約束の時間!過ぎてるじゃんか!」

慌ててそう言うものの、風丸はやはりきょとんとした顔のまま、あっけらかんと言い放った。
「そんなの良いだろ、別に」

「はぁ?」

「だって、この人混みからは抜け出せないだろうし。30分も過ぎてるならもう皆待っててくれてないさ」

確かに、俺たちはいつの間にか公園の中央にあるタワーに上るための列に紛れ込んで身動きがしにくくなっていたし、律儀に待っていてくれるメンツじゃない、ってのもよく分かる。
でもまさか風丸がそんなこと言うなんて思っていなくて、すこしびっくりした。

「……風丸、」

「それにさ、俺、円堂があえて皆との約束のことに触れなかったのかと思ってた」

列が少し前に進み、風丸の表情は読み取れなかった。けれど、言いたい事はだいたい分かる。

「皆と、じゃなく、お前と二人で新年迎えたいなあ、なんて」

そんなかわいい事を言われてしまったら皆との約束なんてどうでも良いような気がしてきた。キャプテン失格かも、俺。


とりあえず、流れに乗ってタワーに上るまでは皆との約束の事は忘れることにしよう。うん。

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