寒いのは冬のせいくーりすーますーは今ぉ年もやあってくる、と最近よくCMから聞こえる曲を緑川は上機嫌で口ずさんでいる。楽しそうなことで、非常に結構。

ちなみに今日、クリスマスの夜はイナズマジャパンのみんなでパーティーをするらしい。俺としては、恋人と二人で過ごしたい、と思わないでもないけど。
やっぱりイナズマジャパンのメンバーは特別で大切だからね。お日様園では宗教の関係でクリスマスパーティーなんてしたことがなかったから、っていうのも合わせて凄く楽しみだ。もしかしたら緑川以上に俺は浮かれてるかもしれない。

「ねぇ、ヒロト!そろそろ出掛けなきゃ遅れちゃうよ」

ソファからこちらを振り返り、待ちきれないといった様子でそう言うのは何度目か知れない。
一応時計を確認してみるが、まだ3時をすこしまわったところで、移動時間を考えても開始の5時30分にはまだまだはやい。

「だめだよ、まだ洗い物だってあるし」

なにしろ、お日様園にはたくさんの子供達が居るのだ。食器の数も普通じゃない。

「……ばかヒロト…。なんでクリスマスなんかに当番当たってるんだよ!」

そうやって緑川は毒づくけれど、こればっかりは園のルールだから仕方がない。……いや、まあ、残りこれくらいなら帰ってきてからなんとか終わらせることも出来るだろうけど……いや駄目だ、緑川を甘やかすとろくな大人には育たない…!

俺が悶々してることなんて全然察していないような顔をして、「ねぇ、ヒロト、いいでしょ?」、なんて上目使いで見つめられてはたまらない。俺の完敗である。

「わかったよ、緑川。ちょっと通りをぶらぶらして時間を潰してから行こう」

俺が言うのと同時に緑川は衣紋掛けから自分のジャンパーと俺のダッフルコートを掴んで持ってきた。それを受け取り着ている間に緑川はもう玄関へと行っており、「ヒロトー!早くー!」と大声で呼んでいる。小さい子達は昼寝をしている時間だというのに本当に迷惑だ。(余談だが年長組はこの時間帯だいたい自室に引きこもる。何故なら、リビングに居ては当番の仕事を手伝わされかねないからだ。)

リビングを出るときに視界のはしに食器の山が写ったけど、とりあえずいまはスルー。うん、人生何事も諦めが肝心……だ、多分。


街は綺麗なイルミネーションに包まれていた。それは数日前から既にそうだったのだけれども、周りの雰囲気も相まって今日はやはりひと味違うように見える。

「綺麗だな、ヒロト。これで雪が降ったら最高なのに!」

「ううん……東京でホワイトクリスマスはなかなか無いんじゃないかなあ」

緑川の言葉にそう返すと、機嫌を悪くしたようでそっぽを向かれてしまった。事実を述べただけなのに、ちょっと寂しい。

「緑川、ねぇ」

俺が声を掛けてもこちらを向いてくれない。なんだなんだ、酷いじゃないかと思わないことも無いが、俺は大人だから許せる。というか、緑川が子供すぎるのだ。いや、そういうところも可愛いのだけれど。
可愛い、うん。

「可愛い」

「はぁ!?」

あ、こっち向いた。可愛い、と口に出してしまったのは俺のミスだけれども、こうなればもうこっちのものである。

「寒いね、緑川」

「……え、なに?」

「手、繋ごっか」

途端に顔が真っ赤になる緑川が酷くいとおしくてたまらない。室内にいると大胆なくせに、人の目線があるとすぐ人が変わったようにシャイになる。
そんな緑川も可愛いけれど、クリスマスくらいごほうびをくれたって良いはずだ。現に俺は緑川の我が儘を聞いてあげたんだから。

「寒くないの?」

「寒い……けど。」

俺が緑川から視線を外さないでいると、おずおずとその手が差し出される。遠慮も情緒も何もないけれど、緑川の左手に絡み合わせた俺の右手は、確かに熱を感じた。

10:Dec:24th/top